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「――!!」
「―――」



 階下から聞こえるくぐもった声は、それが怒声だとはっきり分かるのに内容がわからない。
 かすかに聞こえる言葉を繋ぎ合わせたって無駄。もう誰が何をしようと関係ない。
 関係なくなる。



「悲劇のヒロインなんてガラじゃない」



 右手に持ったのは何処にでもあるようなツールナイフ。
 父さんが私にくれた最初で最後のプレゼント。



「でも、状況だけならそう言えなくもないんじゃない?」



 自分自身に嘲笑まじりの問いを投げ、手首にナイフを突き立てた。
 動脈を抉るように深く、深く・・



「さよなら、私」



 主のいない水槽に腕を浸して目を閉じた。





「今のお前に別れを告げな」





「――・・・」



 開け放った窓を背に立った一人の女。
 普通ならありえない。だけど、今日ならどんな不思議だって受け入れられるような気がした。



「何しに来たの? 死神さん」



 真っ黒い外套に、その隙間から垣間見える鎖。
 何て美しい死神。彼女に連れて行かれるのなら、死出の旅路にだって胸が高鳴る。



「言っただろう?」



 __ジャラッ..



「俺はお前を掻っ攫いに来たんだよ」



































「俺はルーラ。・・まぁ、今は憶えなくてもいいけどな」



 霞の様に消え失せた少女。残された漆黒の女。
 クツクツと湧き上がる笑いを押さえようともせず、ルーラは足元の水槽を蹴り倒した。



「それにしてもエグい」



 広がる、紅。



「〝君〟がやったんだろ?」



 いつのまにか自分の背後に立っていた男を顧みる事はせず、フローリングの床に広がった鮮血まじりの水に、ゆっくりと屈み指先を浸す。



「若気の至りさ」



 水によって薄められた鮮血が、淡く光を発した。



「――」
「―――!!」



 階下からの怒声も、今は取るに足らないものだと思えるのは、流れたときの長さだろうか。



「いい加減黙れ」



 放たれた言葉にははっきりとした力が込められていた。



「お見事」



 騒がしかった家に静寂が落ちる。














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