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 必要な《鍵》の在処について。サラには幾つかの心当たりがあった。その最後。山間。谷底の屋敷。
 待ち伏せされたと、気付いた時には遅かった。数百キロの距離を数秒で飛び越えてしまう無茶な移動の直後。そもそも尽きかけていた魔力では、放たれた魔法を防ぐこともままならない。

「手荒な真似をしてすまんの」

 子供騙しのような拘束だった。

「じゃがわしは、おぬし目的を知らねばならん」

 逃げ隠れるよう意識を閉ざす。レイチェルに代わって、今はサラが未成熟な体を意のままに動かす権利を持っていた。
 だからこそ無茶をする気にはなれない。

「目的?」
「そうじゃ。おぬしのような子供が何故、スリザリンに纏わる屋敷や城を荒らしまわっておる?」
「私にはその権利があるからだ」

 どうにかして荒事だけは避けられないだろうかと、サラは思案する。
 その気になればいくらでも無茶の利く体。だからこそ大切にしたいのだという本心が、今は沢山の選択肢を潰してしまっていた。

「そのような権利、今となっては誰にもありはせん」
「何故。現に私はこれまで訪れた場所全ての封印を解いている。誰も入ることの出来なかった屋敷。封じられた城の扉一つ一つへかけられた緻密な呪いの、いったいどれが私を傷付けた?」

 施された拘束を解くことも、この場から逃げ果せてしまうことも。まだ完全に仕上がっているとは言い難いレイチェルの体から、無理矢理に魔力を引き出し使ってしまえば容易く叶う。
 たとえそのために自身の命が縮まったとして、レイチェルは気にしないだろう。そういう子供であることを誰よりもよく知っている。知っているからこそ、サラは――サラだけは、レイチェルの命を大切にしていたかった。

「私だけが開く術を知っている」

 拘束された子供にさえ油断無く杖を向けてくる。老いた魔法使いが背にした屋敷こそ《鍵》の隠された場所であると、サラは既に確信していた。

「権利云々の話をするのなら、貴様にこそこんなことをする権利はないぞ」

 あと少しで手が届く。切り札までの距離はほんの数メートルにも満たない。屋敷の一部にでも触れられたなら、そこへ施された《護り》の全てをサラは意のままにすることができる。サラだけがその術を知っていた。
 権利ならある。それこそ今を生きる誰よりも。サラとレイチェルだけが権利を持っていた。

「おぬしは――」
「 開け! 」

 一か八か。この際賭けてみることにして、サラは鋭く声を発した。
 強く握り締めていた拳。そこから滴り落ちた鮮血が、地面に触れて光を放つ。

「なんじゃ…!?」

 ぐるりと足下に描かれた円環。黒くぽっかりと開いた穴へ落ちるよう、その場を離脱した。
 何かの拍子に外れた拘束をそのまま払い除け、息を吐く。

「だから言っただろう」

 次に現れた場所は、ついさっきまでいた場所とそう離れていない。けれど屋敷の「内」と「外」とを隔てる《門》の内側。外側に立つ魔法使いを振り向かせ、サラはうんざりとした内心隠そうともしなかった。

「貴様に口を出す権利などない」

 主の帰還に色めく屋敷。長い間その存在さえも悟られずにいた数多の魔法が息を吹き返していく様はあまりに劇的で、視界にも見て取れてしまうほどだった。
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