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「サラは誰なの?」

 自分の父親に面と向かって言うには奇妙な科白だった。

「真実などない」

 けれど顔色一つ変えることなく、魔法薬の調合について講釈を始める時のよう滑らかに。サラは淀みなく言葉を紡ぎ始めた。

「お前にとっては父であろう。レイチェルからしてみれば捨て損ねた魂の半分だ。リドルがどう思っているかは知らんがな。その全てが正しく、また誤りでもある」
「…哲学的ね」
「だが、お前が求める答は違うのだろうな」

 そういえば、珍しく地下から出てきている。サラの瞳は、太陽の光を受け眩しそうに緩く細められていた。

「私はかつてサラザール・スリザリンとも呼ばれていた」

 紅い瞳。血の色が透けて、宝石のよう深く光を取り込みながら鈍く反射する。あまり長く見つめ合ったことのない。

「ある程度の正確さを求めるのなら、私はサラザール・スリザリンの生まれ変わりであるレイチェル・スリザリンから弾き出された前世の記憶と伴う知識だ」

 何もかもがとんでもない話だった。

「私の父親がホグワーツの創設者だって言うの?」
「人格までを引き継いではいない。全ての記憶を持つ以上、全く異なっているとも思えないが。少なくとも私は私自身をサラザール・スリザリンそのものであるとは思っていない」

 なのに語られる全てがサラにとっての真実なのだろうと、私はどこか確信していた。
 認めたくないと思っているのも本当だけど。

「私はあれに忠実な下僕だ。それでいい」

 嘘は分かる。多分サラがリドル以上の天才的な嘘吐きだって。これだけまっすぐに見つめ合っていれば分かるはずだった。

「あとはお前がもう少し懐けばいいのだがな」

 嘘であれば良かったのに。

「…ようやく触れても泣かなくなった」

 サラとの間に、初めから大した距離はなかった。伸ばされた手の平は容易く私の頬を包み込む。温かくもない温もりで。そっと。まるで何かを恐れたように。

「お前はリドルにしか懐かなかった。それはいい。そうでなければ生きられなかったのだから。それは私とレイチェルに起きたこととそう変わらない」

 頭の中でけたたましく警鐘が鳴り響いていた。

「けれどお前はいい加減、親に愛されていることを認めるべきだ」

 なんてことを。





(遅れてきた後悔/緋星。ぼけつ)





 母親似の容貌をくしゃりと歪め、添えられた手の平を遠ざける。

「そんなの無理よ」

 ルーラは泣かなかった。
 他者の存在にあからさまな嫌悪を見せるほど子供ではなく、容易に泣き喚いてしまえないほどには大人へ近付いてしまっている。
 ルーラの感情が著しくリドルへ傾いてしまっていることをサラは知っていた。それが仕方のないことだということも。そうでなければ生きられなかったのだから。生きようと生きたルーラは責められない。
 けれどそろそろ努力を始めてくれてもいいのではないかと思っていた。

「リドルを恐れる必要はない」

 ルーラと魂を混ぜたリドルとて。もう後戻りの出来ないところまで来てしまっているのだから。見捨てられはしない。そして全ては初めから決まっていたことだ。
 ルーラは幸せを掴む。
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