退屈な家を飛び出して、
深い森を抜け、
走る。走る。走る。
名立たる迷宮(ダンジョン)を素通りし、
数多の魔物たちを袖にして、
遠く、遠く、《果ての森》まで。
イアールンヴィズに暮らす狼(ヴァナルガンド)たちの長(おさ)は漆黒の魔物だった。
金の目をした黒い狼。
この上は無いだろうという程に、気高い獣。
その姿は美しく、
瞳もまた輝かしいばかり。
その声の凛々しさと、
眩いほどの力に魅せられた。
注がれる眼差し。
与えられる優しさ。
抱き締められた腕の温もり。
意地悪な微笑み。
「…また来たのか、お前」
きっと許されない、恋をしていた。
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