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 なんて可愛気のない自動人形(ドォル)だろう。
 そう思って、叶(かのう)は磨き上げられた宝石のように黒々と輝く参(サード)の瞳をぺろりと舐めた。
 舐められた方の参といえば、人形らしくソファーへ押し倒されたまま。身動ぎ一つすることなく、両目を開いて叶を見つめている。
 硝子玉の瞳は鏡のよう、参のマスターである叶を映した。
 自動人形である参には、瞬きをする必要がない。叶に抱きしめられると、参は決まって精巧な自動人形(ドォル)であることを放棄した。人の真似事としての瞬きをやめ、呼吸さえ止めて。それこそただの機械人形――あるいは単なる人形――のよう振る舞い、脱力し、叶のなすがままになる。
 そんな参が、叶は憎たらしくてならない。
 それでも手放せないくらいには、どうしようもない参(おにんぎょう)をたまらなく愛していた。

 参(サード)・ナンバーズは、叶が名前の次に親から貰った人形だ。
 貰った、というのは正しくない。叶をマスターとして選んだのは参自身だ。そのくせ瞳の色を叶と同じ金に染めようとはしないのだから、矛盾している。主人を選んだ証明に瞳を主人の色に染めるのは、《ナンバーズ》として作られた自動人形が備える標準的でいて基本的な機能であるにも関わらず…だ。言うなれば、参は初期設定を終わらせないまま稼働した挙句、ちょいちょいフリーズをおこす不良品。製作者である叶の父――プペ――さえ匙を投げた欠陥人形だ。

 それでも、参が叶に応え動き出した事実は変わらない。変えようもなかった。だからこそ、叶は参を愛している。参は叶だけの自動人形だ。
 けれど。ともすれば、あらゆる自動人形を正しい主人と引き会わせる《鍵(クレ)》の導きによって引き離されてしまう可能性もなくはない。なにせ、参は未だ叶を正当な主人と認めていないも同然の振る舞いを平然と続けている。その瞳へ叶の色を宿さずに。

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