猫が好きだ。猫科の動物でもいい。ただそこにいるのを眺めているだけでも幸せになれる生き物なんてそうはいない。触っても幸せ。抱き締めても幸せ。甘えるように擦り寄られたらもっと幸せ。
猫の次に蛇が好きだ。蛇に限らず体に鱗のある生き物はたまらない。一日中撫で回していたって飽きないだろう。
だけど何より、美しいものが、好きだ。
きっと人は誰だってそうなのだと思う。醜いよりは美しい方がいいに決まってる。赤い林檎よりも黄金の林檎の方がより欲しい。
入学式が始まってから、私はずっと考えていた。校長の挨拶や在校生代表の歓迎の言葉を聞き、新入生代表の挨拶を述べながらも、ずっと。いったいどうすればより効率良く、私にとって都合良く、クランフォード君と仲良くなれるだろう――と。
目が痛くなるほど煌々と照らされた舞台の上に立ち――それらしく考えてきた挨拶の文句を一言一句言い間違えることはおろか、言い淀むことさえないまま朗々と読み上げ――ながら、視線はついつい舞台に上がるまでの道筋を遡ってしまう。その終着点はもちろん私が座っていた空っぽの席で、その隣には今もクランフォード君が座っていた。
交わる視線は、ほんの少しだけ私を我に返らせる。それでも私は――用意しておいた内容を消化し終わったのをいいことに――たった一人のため微笑んで、聴衆へ向けお辞儀する。儀礼的な拍手を浴びながら、落ち着き払って――内心、足取り軽く――来た道を戻った。一旦舞台袖へと捌けて、ホールの外から入り直した方が席までは近い。
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