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「では、この状況を…――コールドチェーン、君ならどう乗り切る?」

 戦術師・グラブス教授の御指名に、あたしは隣の席で机に突っ伏す冬星・コールドチェーンの脛を、力の限り蹴り飛ばした。

「いっ!」
「どうかしたのかな?」
「い、いえ…なんでも、ありません…」

 文字通り飛び起きた冬星はグラブス教授の問いかけに拳を握り締めながら答えた後、親の敵でも見るような目であたしを睨んだ。あたしはそ知らぬ顔で教壇に目を戻す。
 当てられてるわよ。――頬杖をつき、顎に添えた手の平で唇を隠しながら呟けば、何をと、押し殺した声が降って来る。

「(状況をクリアしろって)」
「(条件は?)」
「(言ってない)」
「…教授、盤上の駒を僕のチームのメンバーと仮定しても?」

 冬星の言葉によって生徒の間でどよめきが起こり、一転、耳が痛くなるような静寂が落ちた。誰もがグラブス教授の返答を聞き逃すまいと必死で、なのに教授は、なんでもないことのように頷く。

「いいだろう」

 ああ、なんてこと。

「ならまず、赤い駒を暁羽・クロスロード、青い駒を蒼燈・ティーディリアス、白い駒を僕と仮定します。魔物が集中しているのは蒼燈の左手ですから――」

 まず、冬星が口にした二人の名前に教授の表情が引きつった。当然の反応。冬星は後方支援向きの呪術師で前線に出ないから知らないのも無理はないけど、残りの二人――暁羽・クロスロードと、あたしの兄、蒼燈・ティーディリアス――といえば、この学校屈指の魔法師で、普段王城勤めでこっちには滅多に顔を出さないグラブス教授とはいえ、さすがに知っていなければおかしい。

「――これで、終了です」

 見事危機的状況をクリアして見せた冬星に、生徒からは惜しみない拍手が送られた。グラブス教授はまだ表情を引きつらせたままだけど、誰も気にしない。実の所あたしも教授は嫌いだ。目つきが悪いから。

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