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 私たちの「支配」する力は使えば使う程に進化する。強化されていく。
 たとえばマリーメリーのそれが初めのうち、傍にいる人の機嫌がなんとなく感じ取れる程度のちょっとしたものだったにも関わらず、今では他人の心を思うがまま書き変えてしまえる程のものへと成り果てているように。私が持つ《力》だって、まだまだ伸び代は途方も無いほどにあった。
 だから今更、その影響範囲が「金属」から「鉱物」へと広がったところでどうということもない。

「ねぇ見て、リドル」

 気が付いたのは、偶然。誰かの落とし物だろう、小さな赤い石の嵌る指輪を拾った時の事だった。
 私はその時、台座のシルバーと嵌め込まれたルビーへ同じよう魔力が通ることに気付いてしまった。
 それはつまり、生まれ持った便利な力でその両方を《支配》してしまえるということ。
 いつかそんな日が来ることは分かっていた。私もマリーメリーと同じ、自分の《力》を伸ばすことに躊躇いのない人間だから。金属に対する《支配》が完全なものとなってから、次の段階へと進むことはある意味必然だった。
 そうして手に入れた真新しい《力》を、私は扱い慣れた金属の応用でいとも容易く飼い慣らしていく。その進化に終わりのないことを知っていたから。心は貪欲に更なる《支配》を求めてさえいた。

「綺麗でしょう――?」





 ジニー・ウィーズリーには相応しくない「異能」。
 その《支配》を、長らく振りに現した本来の姿でミザリィは思うがままに振り撒いた。
 その指先から放り投げられる金貨が、
 銀貨が、
 銅貨が、
 水晶が、
 紅玉が、
 青玉が、
 瑪瑙が、
 ありとあらゆる「鉱物」が、本来の在り様を捻じ曲げられ、柔らかな飴細工よりもっとなめらかに、飛沫を上げる水より軽く宙を舞う。時折気紛れのよう研ぎ澄まされては深々と周囲の壁に突き刺さり、床を抉った。

 面白ものを見せてあげる――。
 いつになく上機嫌なジニーに連れられ、とある隠し部屋まで足を運んだリドルはこの上ない愉悦と囁かれた遊興の正体に絶句する。
 いったいこれは、どういう類の悪夢だろうか――と。

「石の方がずぅっと、魔力によく馴染むのよ」

 踊るようにくるくると、黒髪を揺らして回る。
 ミザリィの周囲には、絶えず交じり合わない水と油のよう雑多な色が躍っていた。
 その全てが元は石や硬貨だったなどと、今更誰が信じられるだろう。
 ただの色水を同じように操ってさえ、その華やかさと技巧の素晴らしさからミザリィは惜しみない賞賛を得られたはずだ。それが鉱物である必然性など、この期に及んで微塵もありはしない。
 ミザリィの《力》は、最早そういう域に達した《魔術》。

「君、本当に僕と秘密の部屋開けるつもり…あった?」
「えぇ」

 どうしてそんなことを聞くの? ――あるいは、「そんなのあなたが一番良く知っているでしょう?」とばかり。
 きょとりと首を傾げるミザリィにいい加減、馬鹿馬鹿しくもなったリドルは声を上げて笑う。
 これなら、いっそ誰を相手取ったとしても負けはないだろうに――と。

「君って、最高だね」





(おどるレクイエム/赤目と記憶。きょうき)
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