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「ミサナギさまミサナギさま」

 てとてとてとてと、大人が歩くほどの速さで危なっかしく駆けてくる。

「ミサナギさまー」
「あい、あい」

 足へひしっ、としがみついてきた人の子を軽々抱き上げて。ミサナギはぐるりと辺りを見渡した。

「一人で来たのかえ?」
「ひとりできたのだえ!」

 子供はいかにも誇らしそうに胸を張る。

「一度も転ばなかったのか?」
「あい!」
「そうか」

 親が目を離し、一人歩きさせるには幼すぎるほどの子供だった。

「偉いの」

 隅から隅まで丁寧に掃き清められた境内を横切って。参道の脇に建つ社務所まで。
 家内安全だの学業成就だの、無節操に並べられた札の類には目もくれず。
 ミサナギは腕を伸ばし硝子を叩いた。

「娘が脱走しておるぞ」
「だっそー!」

 何がおかしいのか子供はけらけらと一人で笑っている。

「フルミチ」
「ヨウコが一人で行けると言ったんですよ」

 からからと窓を開け、顔を出した神主も悪びれることなく笑っていた。
 子供の父が。

「転びでもしたらどうする」
「ちょっとくらい転んだ方が丈夫に育ちますよ」

 臆面もなく言って、ミサナギに抱かれた我が子の頭を撫でる。
 話の途中から妙に大人しくしていた。子供はミサナギへひしと抱きつき眠りかかっている。

「さっさと引き取れ」
「連れて行っちゃっていいですよ」
「…喰っちまうぞ」
「どうぞご随意に」

 食事に腹も膨れた昼下がり。子供にとっては身に染み付いた昼寝の時間。

「おやつは冷蔵庫に二人分用意してますから」

 ミサナギは子供を抱き直し、心底呆れたように息を吐く。

「私に子守をさせる気か」
「好きなくせに」
「お前のように神使いの荒い神主は初めてだぞ」
「光栄です」

 子供はとっくにくぅくぅ寝息を立て始めていた。

「褒めてない」





(子守りの神様/蛇と主。べったり)
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