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...110712

 冷え切った子供の体。助かりはしないのだと、投げられた匙に抱きしめる腕ばかりが確かな温もりを探していた。
 まだたったの六年しか生きていない。私に優しくしてくれた。幼い子供の死ななければならない道理があるものか。

「ヨウコ」

 ぐったりとした小さな体。よく持った方だという慰めは、神経ばかりを逆撫でた。
 まだたったの六年しか一緒にいない。もっとずっと、長く笑い合っていられるようにと。

「ヨウコ」


 願っていたのに。


「死なないでくれ」

 神と崇め奉られた。妖(あやかし)のなんと無力なことか。

「ヨウコ」

 大切な友人一人満足に救えもしない。惨めな化け物。

「死ぬな」

 いっそ身代わりにでもなれてしまえば良かったのに。



...110712

 自分は妖怪の血を引いているのだと臆面もなく話す。同級生の男の子。奴良君はいつだってただの人間だった。あの日までは。

「全ての妖怪は――」

 妖怪の主になるのだと、力を示した。彼は確かに人間以外の生き物で。
 恐ろしいと思った。



...110712

 けらけらと夜を跳ね回る。楽しげに。ミサナギは長く綺麗な髪をなびかせて。



...110712

 銀木犀が狂い咲く山の中だった。

「おい」

 投げられた呼びかけを一瞥。薄く笑って、滑り落ちるよう木を下りた。

「見ねぇ顔だな」
「ここらに暮らす妖怪の全てを把握してもいないだろうに」
「…違いねぇ」

 からからと笑う。ミサナギはゆらゆらと着物の袖を揺らし。

「この辺りに棲みついてる龍を知らねぇか?」
「ミサナギなら死んだ。他の龍は知らん」
「死んだ? …いつ」
「さて。神主の娘が死にかけた頃だからの。六年程前か?」
「神主…ミサナギ神社のか」
「そう。そう。ハナサキの娘よ。ヨウコ。あれは――」

「……」

「どうした?」
「ちと喋りすぎた。去(い)らねば」
「何かあるのか」
「門限」

「人間みてぇなこと言うんだな」
「私は人間だよ」
「そうは見えねぇ」
「そうか? …まぁそうかもの」

「じゃあね、奴良君。また明日学校で!」



...110712

「銀木犀…」
「なぁに?」
「ハナサキさん、ちょっといい?」



...110712

「おい、ぬらりひょん。私に何か用か」
「おお、生きておったか」
「今日だけの。ここ最近はぱったり死んでおったよ」



...110712

「あっ」
「おっとしまった」

 くるり

「――逃がすかよ」

 姿入れ替え

「匂いが隠せてないぜ、ハナサキさん」
「あらそう?」

 たーん

「捕まえたぜ」
「捕まっちゃった」

「クウォーターのくせに結構動くのね」
「そういうあんたは何なんだ?」
「人間よ」
「冗談だろ」
「あら酷い」

 本当なのに



...110713

 月が丸いと気分が高揚して、眠れいないこともしょっちゅうだった。いつものこと。私は血のざわめきに逆らわず、真夜中の散歩へ繰り出した。

「良い月夜ねぇ?」

 たーん、と長く跳ねて。棲家の杜を抜ける。あてもなく街をぶらつき。

「あんた、ここらじゃ見ねぇ顔だな」

 すれ違う男に声をかけられた。

「はて」

 一目見て分かるぬらりひょんの孫。この姿で会うのは初めてではないのにと、笑ってしまう。

「私はお前を知っておるよ」
「名前は?」

 とにかく気分が良くて。笑いは止まらず、髪を揺らすたび小さな花弁がどこからともなくはらはら舞った。銀木犀の。

「お前も私を知っておるよ」

 ほのかな芳香に鼻は慣れきっていた。

「俺が?」
「よく知っておるはずだよ」

 どこにでもいる人間の格好をして、けれど輝くような銀の髪、金の瞳は夜に暮らす妖(あやかし)もののそれだった。一目見てそうと分かる。

「生憎覚えはねぇな」
「それは酷い」

 心にもないような物言いをして、やはりからから笑っている。
 仕方のないことだと分かっていた。

「私たち、結構仲良くやってきたじゃない」

 わざとらしい作り声で話して。あぁやりすぎたかもしれないと思った。全て頭上に輝く月のせい。自分で自分を半ばコントロール出来ていなかった。



...110713

「ヨウコ君も来たまえ!」

 何を隠そうミカナギ神社の娘で巫女さんなのだ。



...110714

 ___町の夜が騒がしくなって杜を閉じた。閉じ込もって。誰に邪魔されることなくごろごろと。
 しているつもりだったのに。

「ヨウコちゃんも来るよね?」
「んー? んー…」

 どうにはそうは問屋が卸してくれないようで。

「別にいいけど」

 ___の活動がどうとか。

「母さんもきっと喜ぶよ」
「うん」

 実のところ、リクオの家には何度か遊びに行ったことがある。むしろ小さい頃はしょっちゅう遊びに行っていた。妖怪たちと戯れて。
 だから私はずっと知っていた。リクオは妖怪。ぬらりひょんの孫がどういうものかということも。ミサナギに聞いて知っていた。幼心に自分の幼馴染は凄いのだと、誇らしくさえ思って。
 私は大好きだったのに。



...110715

「人に仇なす妖よ」

 振り下ろす腕には鋭い鉤爪。
 浴びる血の生温かさに顔を顰めた。

「私を恨んで死ぬがいい」

 体がずしりと重くなる。落ちた腕の指先から滴る血は、ぐずぐずとまとわりつくよう粘ついていた。
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