眺める分には綺麗な男。ぬらりひょんの孫は度々泉の畔へやってきた。
銀木犀の木の根方。転がる私の傍に立ち。
「一杯やらねぇか」
揺らされた徳利からはたぷん、とまろい音がした。
「酒は飲まん」
「下戸か」
「体に悪い」
人間的な感覚の問題。
ぬらりひょんの孫はあらかに不満そうな顔をした。
「俺の酒が飲めねぇって?」
まったくもって俺様の言い様。
「好きじゃないんだ」
合わさっていた視線を絶ち切って。目を閉じると、諦め混じりの溜息が隣へ落ち着く気配と重なった。
「手酌が嫌なら帰れ」
「何も言ってねぇよ」
家へ帰れば酒くらい誰とだって飲めるだろうに。
酔狂な男はしばらくの間黙って酒を飲んでいた。
「…眠っちまったのかい」
あと少しで本当に眠ってしまおうかというところ。
髪に乗った花弁を払い落とすよう髪を撫でられうっすら目を開ける。
「はおりはいらんよ」
「ん?」
「返しに行くのが面倒だ…」
「そうかい」
返事はするくせ聞いちゃいない。
どういうわけか笑いながらかけられた。藍色の羽織は温かく、遠退いたはずの睡魔をずるずる引き戻す。
「いらんと言うておるに」
「わざわざ返す必要ねぇさ」
夜明けが近いことは分かっていた。
「やるよ」
だから次に目覚めた時、ここにこいつはいないのだ。
(宵闇に逢瀬/華と夜。みつぎもの)
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