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 二人同時に当たると中身が入れ替わるんだなんてふざけた特殊弾。

「まったく面白くもなんともない二人があたりましたね」

 確かに当たったのが私と恭弥じゃあ面白くもなんともない。むしろ誰も気付かなそうだ。

「そうね」
「…あなたはあなたで、雲雀君の体で苦も無くイツキの声を出しますし」
「幸い幻覚能力は問題なく使えるもの」

(だからぼつねたなのだよ)


---


「――どういうこと?」
「…何が?」
「君の体、使えないにも程があるよ」
「あぁー…」
「まぁ、イツキの強さは精神的なものですしね」
「ごめんね恭弥。その体全然鍛えたりしてないの。筋肉つくとドレスの時見栄え悪くて触り心地もよくないし」
「さいあく…」

(さわりごこちっておま)


---


「あ、抱き心地いい」
「自分の体だろ」
「うんまぁそうなんだけどね。だからこそというか…」
「なに」
「……ちょっと脱いで」
「は?」
「あ、やっぱりいい。脱がしたい」
「……」
「ちょっと、そんな引ききった顔しないでよ。傷付く」

(だれのせいだと)


----


 大切に大切に、誰よりも何よりも優先して、守り愛されていることを知っていた。

「きょうや」
「なに?」

 だから同じくらい大切に大切に、守り愛してあげなければと思っている。

「きょうや…」
「うん」

 そうでなければ意味が無いと、恭弥は納得していた。

(あまやかす)


----


「恭弥君、恭弥君」
「……」

 呼ばれて素直に顔を上げたのは、一応恭弥なりにその男のことを認めているからだ。

「イツキちゃんは?」
「……」

 何より匠のことはイツキが気に入っている。

「下」
「あぁ、じゃあ宮内君と一緒かな」
「違うよ、一人だ。怒ってる」
「えぇー…」

 言ってから、少し違うかもしれないなと恭弥は思い直した。

「というより、機嫌が悪いのかな」

 そう、そんな感じだ。そもそもイツキが怒ることなんてそうそうない。

「もうすぐ来るよ。あなたはいない方がいいと思うけど」
「恭弥君がそう言うなら出直そうかな…」

(えすぱーかきさま)


---


 物憂気な顔で柱に寄りかかりうつらうつらと、眠れもしないのに舟を漕ぐ。

「イツキ」

 そんなイツキへ声をかけ、恭弥はぽん、と膝を叩いた。

「おいで」
「……」

 気怠く瞬いたイツキがずるずる這いずって来たところを捕まえて、あやすように背中を撫でる。イツキが自分から擦り寄ってきたら手を止め、読みかけていた本へ目を戻した。

「少し眠ったら」
「うん…」

(おつかれいつき)


---


 イツキが「ない」と信じて疑わずそう公言して憚らない絆はその実、確かに存在してはいた。恭弥だけが知っていて、恭弥だけが利用出来る酷く一方的なものではあったけれど。

(ふたごですから)


---


 それまで当たり前のように聞こえていた声はいつの頃からか徐々に遠退き始め、やがて聞こえなくなった。その理由を恭弥は知っていて、だからこそ失くしたものを惜しんだりはしない。失ったものは確かに大きいけれど、それ以上のものを得られる確信があった。
 双子の時間はもう終わり。

(ぱらだいむしふと)


---


「だいすきよ、きょうや」

 面と向かって言うのはいつもそこまでで、続く言葉は夢の中。

「あいしてる」

 早く目を覚ませばいいのにと、恭弥は冷えた体を引き上げる。

(ばか…?)

 いくら外が暑いからといって、帰るなり水を浴びる程の馬鹿だっただろうかと、思案。さすがにそこまでではなかっただろうと結論付けても、抱き込んだ体の冷たさは変わらない。やっぱり馬鹿だ。救いようがない。

(だからはやくめをさませばいい)


---


 普通ではない片割れに引きずられるよう成長した恭弥にはけれど、引きずられた自覚はあっても普通ではない自覚はなかった。「普通」という概念を、恭弥は解さない。
 それはイツキにとって不要なものだ。

「きょうや、」

 恭弥恭弥恭弥恭弥。――いつだって呼ばれている。いつだって望まれている。だから恭弥はイツキの傍にいた。けれどそうでなくとも、きっと一緒にいただろう。イツキは恭弥のもう半分で、恭弥はイツキのもう半分なのだから。

(しょせんふたご)


---


「恭弥君?」
「…姉さんが呼んでる。行かないと」
「イツキちゃんが?」
「放っておいたら死人が出るよ」
「…それは大変だ」

「――何してるの」
「…恭弥?」
「すぐ戻って来るって言ったくせに、なに油売ってるのさ」
「だって…」
「だって?」

「遊んでないでいくよ」

(とりあえずいちおうすとっぱー)
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