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 ぐしゃり。



 不協和音に目が覚めた。

「イツキ!!」

 誰かの悲鳴じみた声に、恭弥が思い描いたのは地獄絵図。引き裂かれ踏みにじられぐちゃぐちゃにされた七つの死体。

(それがとうぜんだと)


---


 ぐしゃり。――不協和音に目が覚めて、まず視界へ飛び込んできた非現実に恭弥は一瞬言葉を失くした。

「……ねえさん…?」

 力なく投げ出された四肢閉ざされた瞼止めどなく流れる血。血。血。

「イツキ!!」

 これはなんの冗談だ。

(はいぼく)


---


 その牙は確かに届いていた。
 けれど足りなかったのだ。

 開匣状態の続いている雲鴉は瀕死のイツキに誰も近付けようとはしなかった。例外は一人だけ。

「もういいよ」

 手酷くやられた自覚のある恭弥はけれどこれほどではないなと、珍しくイツキ自身の血で汚れた頬を撫でる。

「誰か手当てを!!」

(いたい?)


---


「近付かない方が身のためだよ」

 何を言っているイツキのことを殺す気かと、いくら外野に喚かれようと、やはり恭弥にとっては現実味に欠ける光景だ。

「死ぬことになるのはあなたたちだ」

 イツキが負けた。完膚なきまでに。恭弥のイツキが。

「…君も人間だったんだね」

(わすれてたよ)


---


 イツキの動きは怪我をものともしないものだった。反応できたのはその動きをあらかじめ予期していた恭弥くらいのもので、それでも手当てのため近付いてきた人間の首を違わず切り落とそうとしたナイフは本当に間一髪で空振った。

(ておいのけもの)


---


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!」
「その前に君が死ぬよ」

(まったく…)
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