指先から徐々に冷えていく体。ままならない呼吸。濁る視界。
「早く手当を!!」
酸素の足りない頭でだって、自分がもう戦えないことくらい分かる。
「おい、しっかりしろ!!」
嗚呼、負けちゃった。
「恭弥!!」
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺して――
「うるさいな…」
流れ込む思考はそればかり。心底辟易と毒づいて、恭弥は痛みを追い払うよう頭[カブリ]を振った。自分のことを呼びつける跳ね馬の声は相当に切羽詰っているけれど、それはただの自業自得。問題なのはイツキの方だ。
負けてしまったと泣いている。殺してやると叫びながら暴れ回る死にたがり。
「手負いの獣に近付くからだろ」
もう意識なんてほとんどない。だからこそ理性の手を離れた体は本能に忠実で、たとえ手当のためだろうと不用意に近付いてくる人間をそのままにしておけるほどイツキは人に慣れていなかった。
手加減も何も無いナイフの一閃から間一髪、腕の一つも犠牲にすることなく跳ね馬が逃れられたのはほとんど奇跡に近いと、恭弥は他人事のように思考する。
実際他人事だ。
「恭弥!」
「……」
これで跳ね馬が保身のために騒いでいるのなら、恭弥は迷わずトンファーで殴りかかっていただろう。けれど実際、跳ね馬が守ろうとしているのは自分を殺そうとしたイツキのことだ。
おびただしい量の血を垂れ流しながら立ち尽くす。イツキは跳ね馬が近付くまで死んだように四肢を投げ出し眼を閉じていた。その足元に広がる血溜まりがそろそろ取り返しのつかない域へ達することくらい誰が見ても一目瞭然。
けれど恭弥にはどうしても、たかだか腹を抉られたくらいでイツキが死ぬとは思えなかった。それでも毛を逆立てた猫のように無茶な殺気を撒き散らす馬鹿な姉を止めるため一歩踏み出したのは、いい加減頭の中で止まない悲鳴じみた慟哭が鬱陶しいから。
「――イツキ」
君は負けてなんかないよ。
(だってまだいきてる)
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