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 ぐしゃり。



 力なく投げ出された四肢閉ざされた瞼止めどなく流れる血。血。血。

「……ねえさん…?」

 広がる赤に思考が冷えた。

「早く手当を!!」

 指先から徐々に冷えていく体。ままならない呼吸。濁る視界。辛うじて残った耳からの情報を、けれど上手く整理できない役立たずな頭。嗚呼どうしてこんなに体が重いんだろうと、人事のように考える。

「姉さん…」

 今のイツキの状態が、恭弥には手に取るように分かった。何故か、なんて考えたことはない。自分たちはそういうものなのだ。
 どうしてこんなに体が重いんだろう。――イツキの中で繰り返される。疑問の答は一目瞭然。そんな怪我で動けるわけがないだろうと、恭弥は呆れ混じりに内心答えた。そんな怪我? 酷い怪我。どうして私は怪我をしたの。それは――

「それ、は…」

 それはきっと、自分のために。



「――嗚呼、そうね」



 ともすればたとえ彼女が死んでいたとして、誰も驚きはしなかっただろう。 それほどに酷い怪我を負わされた。それほどに流れた血は多すぎた。それほどに力の差は圧倒的で、彼女は痛みを捨てていた。

「その通りよ」

 何故喋れるのだろう何故立ち上がれるのだろう何故笑っていられるのだろう。
 何故。と、問うことも憚られる悲惨な有様で。けれど平然と、イツキは恭弥の思考を肯定した。私は私の理由で戦って、傷付いて、そして――

「ごめんね、恭弥。負けちゃった」

 ぐしゃり、と。



 途切れた痛みに世界は色を失った。



(どてっぱらにあな)
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