「いたぞ」
外つ国の風を辿っていた須佐が声を上げ、手持ち無沙汰に寝転がり空を見上げていた冬星は一度頷いた。
「どこ?」
「そんなに遠くない。森だ」
「ふぅん」
差し出された手になんの躊躇いも無くつかまり立ち上がる。
「じゃあ、行こうか」
一陣の風が吹き抜けた。
「ごめんね、蒼燈」
「まっ・・」
「生きて」
嗚呼、愛しい人。それでいて残酷な貴女は僕の目の前で命を絶った。
不可視の壁を血の滲む手で叩き僕は絶叫する。
嗚呼、愛しい人。何故貴女が死ななければならなかったのですか。
「・・・・ぅ・・ひ・・・・・・そ、う・・・・――蒼燈!」
「っ」
壁が消えなだれこんだそこにはもう何も無く、――「幻聴だ」――耳元で聞こえた悲痛な声を振り払う。
「ち、ろうっ」
とめどない涙が視界を濡らした。
それでも、もう、後戻りは出来ない。してはいけない。許されない。
「この地を守りし四神が一人地狼よ! 柱は立った。蘇れ!!」
もう何も残ってはいない。
「我が名は蒼燈。汝を服従させんとし、汝等が守るべき一族最後の一人だっ」
年老いた地狼は死に、崩れた結界からヴァチカンの猟犬が放たれた。
渦巻くは恐怖と、憤りと、混乱。
――我が、名は?
全てを侵す哀しみ。
「夜空っ!」
嗚呼、愛しい人。貴女の命を受け新たな神獣[シンジュウ]が生まれた。
「――我は地狼。名を夜空。心を捧げよ我が主」
「くれてやるさ、いくらでも。そして喰らうがいい地狼よ」
闇と見紛うばかりの深紫の毛並。彼女と同じ空色の瞳。
これで満足でしょう?
「僕にはもう理由[ワケ]がない」
だから〝僕〟も共に逝く。
「汝を生かすは哀しみか、我が主」
今行くよ、
――姉さん
「神という生き物は酷く弱い」
広がった血溜まりを冷ややかに見下ろし蒼燈は嗤う。
「そうは思いませんか?」
「須、佐・・」
所詮、神など下界では人にさえ劣る存在。
神界の澄んだ大気がなければいとも簡単に命を落とす。
「惰弱な」
その栄華も既に過去のものだ。
神の血に濡れた刃が振りかざされる。
「まっ」
「これが運命[サダメ]です」
そして振り下ろされた。
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