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 突き立った刃の手応えが、違うと解っていて尚思考の隅から嫌な考えを引きずり出す。



「・・・」



 やめろ。





「沙鬼」





「・・・あぁ、」



 返り血が付いたはずの頬を拭っても、手の甲は綺麗なままだった。
 声をかけてきた煌を一瞥した沙鬼の足元で、地面に落とされた一対のナイフが光の粒子となって消え失せる。

 もうそこに骸はない。



「これは持って帰った方がいいな」



 小さな小さな、太陽の欠片だけが落ちてる。



「華月さんにでも渡せはいいよ」
「あぁ」



 服が汚れるのも構わず膝を折り、沙鬼は両手で恭しくそれを掬い上げた。



「沙鬼」



 微かに先ほどまでの緊張感を取り戻した声で煌が沙鬼を呼ぶ。
 沙鬼の手に大人しく乗っていた太陽の欠片は、ふわりと浮き上がり彼女の手を離れた。

 ぴしり。



「・・・」



 ぴしり。



 ぴしり。



「どうしたいんだ?」



 ぴし、



「沙鬼」
「黙ってろ」



 ――あのこ、は



「お前にはやれない」



 ――わたし、は



「お前はお前だ。彼女にも彼女達にもなれない」



 ――わたし・・



「お前はどうしたい」



 ゆらゆらと、儚く揺れる地に堕ちた太陽。
 彼女は光。彼女は闇。彼女は全。彼女は無。



 ――わたし、は・・



 彼女は私の絶対。



 ――さびしかっただけなのに



「そうか」






























「沙鬼」



 感情と呼べるものが一切含まれることのないその声を、冷ややかだと思わなくなったのは、一体いつからだ。
 初めからだったのかもしれない。つい最近だったのかもしれない。

 嗚呼、本当にいつからだ?

 ドアノブにかけていた手を離し沙鬼は振り向いた。
 向かいの部屋から暁羽が顔を覗かせこちらを見ている。



「何を連れて来たの?」



 迷子さ。






























 二度と堕ちてしまわぬように、いつか光に還れるように。









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