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「誰だ、貴様は」



 言葉に込められた殺気に大気が震えた。
 色素の抜け落ちた髪を揺らし少女は振り返る。



「何故ここにいる」



 背を覆い隠すほどに伸びた髪と同じく、その瞳からも、あるはずの色は抜け落ちていた。
 ニヤリ。



「ッ」



 直感的に背後へ跳んだ沙鬼の目の前で地面が弾ける。



「沙鬼!」
「中にいろ」



 体の内側で眠っていたはずの煌が表に現れ沙鬼は舌打ちした。



「面倒見切れん」





「余裕そう、ね」





 そこには少女と沙鬼との二人きり。



「――チッ」



 分が悪いな。
 声には出さずそう呟いた沙鬼の内側で、煌がここを離れようと声を荒げた。



「最悪だ」



 タンッ



「お前のその顔が気に喰わない」



 一瞬で詰められた間合いに少女がこれといった反応を示す事はない。



「ねぇ」



 沙鬼が渾身の力を込めて振り上げたナイフは空[クウ]を切った。



「私が誰か、わからないの?」
「分かるから、気に喰わないんだ」
「(沙鬼!)」
「黙れ、煌」



 少女の笑みが深まる度沙鬼は苛立つ。





「生憎私の主人に慈悲なんてものはなくてな」





 その顔で、
 その姿で、
 その瞳で、



「貴様相手に尻尾を巻いて逃げたと知られれば、何をされるか分からん」



 私を嘲笑うな。



「全力で行かせてもらう」










 例え何があろうとあの人は生きようとする者を嘲笑ったりはしない。









「いいわよ?」



 二本目のナイフを指に絡めた沙鬼を見つめながら、少女は愚かなことだと笑みを深める。



「貴女が私に勝てっこないんだから」
「さぁな」



 私は〝私〟の残りかす。



「貴女は死んで、私と一つになるの」



 天照に祝福され幸を得た〝私〟に取り込まれ損ねた物の集合体。



「そして私は私を取り込んで「黙れ」



 でもそんなのおかしいじゃない。



「お前の存在など悟らせはしない」



 元は一つだったのに。



「ふふっ」



 真っ白なあの子だけが、



「やれるものなら、どうぞ?」










 クロイワタシヲステテシアワセニナルナンテ










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