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「――クソッ」



 眼前に構えた華月神の「矛」は放たれた力を抑えこそすれど、それが「矛」である限り完全に防ぐことは出来ない。
 全身に走った裂傷と飛び散った鮮血に舌打ちし、沙鬼は地を蹴った。
 砕かれない限り両の足は体を前へと運ぶ。落とされない限り両の手は刀を握り、抉られない限り両の目は敵を見据える。



「しぶといですね」



 終わりはしない。



「当たり前だ」



 私は、



「ですがここまでです」



 私は、まだ――










「――後は引き受けましょう」










 戦える。






























「―――」
「カヅキ?」
「・・・・矛が止まった」
「沙鬼がやられたの?」
「らしいな」
「・・・」
「待て」



 ぱしゃん。



「沙鬼は風王とは違う」
「わかってる」
「なら、」
「だから待てって」



 ぴちゃん。



「何のために矛を持たせたんだよ」
「守るためよ」
「だから、」
「何」



 ぱしゃん。



「矛を持ってるなら、こっちに呼び戻せるだろ」






























 息絶えた風王。その傍に蹲る巫女。青みを帯びた大気。血塗れの巫女守。



「これは・・」



 地獄絵図。そう呼ぶにはまだ早い。



「後は引き受けましょう」



 けれど充分だろう。



「休んでいなさい」



 月詠が厳かに告げ、沙鬼は対峙していた蒼燈から一旦距離をとる。
 確固たる意志の宿る瞳が二人を睥睨した。



「暁羽は、貴女が傷つくことを望まない」



 静かな、それでいて有無を言わせない朔魅の言葉に表情を歪め、沙鬼は頷く。
 一拍置いて、その体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。



「貴女は誰?」



 朔魅の視線が蒼燈へと向けられる。



「時塔 蒼燈」
「そう」



 成すべき事は理解した。



「――月詠」



 故に水を統べし汝が力ここに解く。
 闇王月詠。まどろみし者。我が主。



「捕まえて」



 神の血の臭いがした。









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