それはまるで運命のようだった。
振り上げようとした切っ先は微動だにせず、琴音の柄を握った両手は貼りついてしまったかのように離れようとせず、全身の自由を奪われてしまったかのように、体が言うことをきかない。
それはまるで希望のようだった。
雁字搦めの鎖が音を立てて軋む。私をこの地に縛り付けて放さない宿命が、もういいのだと、耳元で囁く。甘く、辛く。
それはまるで絶望のようだった。
気の遠くなるほど永い間縛られてきた私には、自由が何なのか、それすらもわからない。今更自由になってどうしようという。この世界で、もう、やりたいこともないだろうに。
「―― 」
それはまるで運命のようだった。
それはまるで希望のようだった。
それはまるで絶望のようだった。
そして私は、愚かな老いぼれでしかなかった。
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