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「――霹靂[カミトキ]?」



 夕凪[ユウナギ]は知っていた。



「あら、夕凪。どうしたの?」
「それはこっちのセリフ。――そこ彩花の部屋」
「えぇ、そうね」



 自分と夕立[ユウダチ]、彩花は普通の人間で、暁羽と霹靂がそうでないことを。
 それは自らに流れる血の直感。培ってきた勘。生きるための本能。
 霹靂の力は暁羽のように言葉一つで他人を傷つけることはないけど、この倭――特に彩光――では、充分な脅威となりうる。



「だから、入るの」



 ネットワークとの同調[シンクロ]。



「大丈夫。暁羽は止めなかったから」
「・・・アキは止めないよ」



 電脳世界への介入。



「そうかもしれないわね」
「リカコに殺されるかもよ?」
「それはないわ」



 1と0の世界を垣間見た霹靂を、言霊の巫女は敬意を持ってこう呼んだ。



「私は霹靂神[ハタタカミ]だもの」



 人にして神の名を持つ者、と。










「――ノックもしないつもりですか?」



 蒼燈は嘲笑混じりに声を上げた。
 オートロックの扉を鍵となる携帯端末もなしに開いてみせた霹靂は、困ったように小首を傾げ謝罪する。



「どちら様?」
「蒼燈。――貴女は彼女の知り合いですか?」
「従姉よ」
「なら、後はお願いします」



 それ以上咎める気はないのか蒼燈は立ち上がり、それを霹靂が制した。



「待って」
「・・・僕には用事があるんですけどね」
「彩花の傍にいてくれないかしら」



 蒼燈が値踏みするように目を細め、霹靂はベッドに横たわる彩花を視界に納める。
 うつ伏せた彼女の左手は、しっかりと蒼燈の手を掴んでいた。



「その方が、いいわ」
「いいえ」



 霹靂の言葉を一蹴すると、蒼燈は名残惜しさの欠片も見せず彩花の手を振りほどく。
 



「僕には、まだ果たさなければならない約束がありますから」



 もっとも、彼女のあれは命令にも等しいですけどね。

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