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 耳を塞ぎたくような咆哮が轟いた。





 ぴりぴりと肌を刺す殺気混じりのそれに、クライシスはバルコニーから身を乗り出し庭を見下ろす。



「誰がリークメシアを怒らせた?」



 テーブルを囲む仲間の視線を一身に受けたイヴリースは、心外だといわんばかりに顔を顰め、咆哮の聞こえた方へと目をやった。



「どこぞの雑魚だろう」



 暗に自分ではないと主張するイヴリースを胡乱気に睥睨し、クライシスもまた森の向こうに目を凝らす。



「・・遠いな」
「お前でも見えないのか?」
「目はリークメシアの方がいい。――アイリス、何か見えないのか?」
「・・・」



 クライシスに見えるのはどこまでも続く「死の森」と、連なる山々。庭にいるイヴリースたちにはその半分も見えていないのだろうが、それでもあの目立つ蒼の竜は見当たらない。山の向こうで暴れているのか、どこぞの谷に潜っているのか。
 目視での確認を諦めまた庭へと目を落とせば、瞑想するかのように目を閉じたアイリスを正面に座るイヴリースが楽しげに見守っていた。
 ついこの前リークメシアに手を出すなと言われたばかりなのに、あいつはまだ懲りないらしい。



「――血の海」



 ぽつりとそれだけ言って、アイリスはクッキーに手を伸ばす。
 それを聞いたイヴリースは空になったカップに紅茶を注ぎ足そうともせず、席を立った。



「行ってみないか?」



 声をかけられた藤彩は悩むような仕草と共に小首を傾げる。



「連れて行ってくれる?」



 イヴリースは嬉々として答えた。



「もちろん」




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