不変であるように仕向けられた日常。
口では否定しながら、裏腹にもそれを受け入れたあたし。
「退屈」
安寧な不変ならばそれでいい。
でもあたしは生きるために刺激を求める。
「暇」
あたし一人の命はあまりに軽い。
あたし一人の存在はあまりに重い。
「退屈」
バランスのとれない〝あたし〟。
守る騎士のいない姫。
「暇」
歩き続ける〝あたし〟。
「連れて行ってあげましょうか?」
踏み出すたび崩れる〝歩いてきた道〟。
「出来ないことは言わないで」
後戻りの許されない獣道。
「出来ますよ」
あたしは命を削る。
投げ出したままゆらゆらと揺らしていた足を止め、彩花は目を開ける。
木漏れ日が降り注ぎ手の上で揺れていた。
「僕は君を連れて逃げることが出来ます」
伸ばされた手が下ろしていた手に触れる。
「一緒に逃げませんか?」
嗚呼、暖かいな。
彩花はまた目を閉じる。
「本当、に?」
背にした木の幹はほのかに温かい。
それよりもその手は確かな温もりを持っていた。
「本当に、逃げてくれる?」
「えぇ」
人の温もりだ。
「貴女の迷いがなくなれば、今すぐにでも」
「・・・それは難しいわね」
落ちるように木の枝を飛び降りた。
さりげなく繋がれた手がその動きを支える。
「あたしはここが大好きだから」
降りしきる陽光。梢を揺らす淡い風。これがあたしの世界だと彩花は笑った。
「そうですか」
繋がっていた二人の手が離れる。
それまで自分が身を委ねていた枝に手を伸ばし、彩花は小さく「ごめんね」と呟いた。
男が笑う。
「なら僕は、貴女がこの世界に絶望した時貴女を攫ってしまいましょう」
そして貴女が諦めたとき、貴女を殺してしまいましょう。
彩花はもう一度、今度は少し寂しげに笑った。
「貴方、誰?」
そして夢から醒める。
「――・・・ははっ」
目覚めて、笑った。
なんて夢を見たんだ、あたしは。
「逃げたいの?」
許されもしない願い。
叶いもしない望み。
僅かに緩められていた鎖が、きっちりと巻きなおされる今日この日。全てが儚い泡のように消え失せるというのに。
逃げるなんて考えることさえ許されなくなる。
「ずっとそのために〝生かされてきた〟くせに」
死。それは最も簡単で、絶対に許されない選択。
そしてあたし自身それを望まない。どんなに自分の意思が踏みにじられようと、あたしは、あの人を哀しませたくない。
「彩花」
咎める様な声で自身を呼び、彩花は一度祈るように目を閉じた。
「貴女はあの人の大切な、この、倭という国を守るのよ」
その身をもって。
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