携帯の、アラームではなく着信音で目が覚めた。
「――……もしもし…?」
〈Bonjour, Farfalla. …ごめんなさい、まだ寝てた?〉
半分どころかほとんど上掛けに埋れたまま、腕だけ出して音源を引き寄せる。どうせ番号を知っているのは片手で足りる人数だからと、そのまま寝起きである事を隠そうともせず電話に出た。
「ん…」
〈寝ながらでもいいからとりあえず聞いて〉
「Oui…」
電話の向こうで静香が浮かべているであろう、すまなさそうでいて微笑まし気な表情が瞼の裏に浮かぶ。上掛けの上から頭を撫でられているような錯覚を伴う心地良い声は、けれどすぐさま目の覚めるような爆弾を落とした。
〈ヴァリアーの主力メンバーが日本へ向かったわ〉
「……うわぁ…」
せっかくの朝が台無し。
〈…驚かないのね〉
「いや驚いてるよ、充分」
おかげですっかり眠気が飛んだ。
〈何か心当たりでも?〉
「今こっちでハーフボンゴレリングが配られてる」
〈うわぁ…〉
それでも未練がましくずるずると上掛けの下から這い出す。顔を上げた途端閉め切られていなかったカーテンの隙間から差し込む陽光に目を焼かれた。
〈大丈夫なの?〉
「…どういう意味で?」
いつも起きる時間より随分早い。
〈貴女の恋人よ〉
「もう雲の刻印のついた指輪を受け取ってる」
〈…思いっきり渦中の人ね〉
「あぁ」
まったく困った奴だよ、と溜息一つ。
「その上跳ね馬に鍛えられてる」
〈…この展開を予想した上で迎え撃つ気でいるって事?〉
「そうでない事を祈ってるよ」
〈頭痛くなってきた…〉
「静香、悪いんだけど…」
〈高跳び?〉
「は、恭弥が嫌がるから無理」
〈…じゃあ、何が「悪い」の?〉
「また迷惑かけそうだから」
〈迷惑? なによそれ〉
〈私が好きでやってるんだから、いいのよ〉
「ありがとう」
〈Je vous en prie〉
PR
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