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 来客用の駐車スペースに押し込んだ愛車に寄りかかりながら煙草を吸い始めてしばらく。無駄な存在感を無為に振りまく男はいかにも金持ち臭い高級外車でやってきた。

「よう」
「…どうも」
「あんたの車か? それ」

 そういう私も、人の事をとやかく言えるような車には乗ってないけど。

「いい色だな」
「恭弥の趣味」

 深い血溜りの色だと笑って言えば、《跳ね馬》とお付きの黒服は苦く笑った。

「あいつらしいな」

 声は少しだけ呆れ混じり。

「ところであんた、恭弥とはどんな関係なんだ?」

 ここでようやく本題。

「それを言うなら私こそあんたがどういうつもりで恭弥にちょっかいかけてるのか知りたいね、ドン・キャバッローネ」
「…同業者か」
「まさか」

 しらばっくれられるかと思ったのに、隠す気はないらしい。

「マフィアなんて群れた仕事、恭弥が許してくれない」

 ふぅっ、と最後のつもりで吐き出した紫煙が消える前に煙草を灰皿へ押し込んだ。それをシガレットケースごと車内へ放り込んで鍵を掛ける。

「私はリナ。…あんたは?」
「ディーノだ。こっちは部下のロマーリオ」
「どうも」
「よろしくすると恭弥がいい顔しないんだけど…まぁいいか」

 手の中へ握り込んだ鍵は次の瞬間消えて失くなった。勿論それを悟らせるような事はしないけど。

「で、あんたと恭弥の関係は?」
「野良猫と餌やりおばさん」

 至極真面目な声と表情でもって答えると、さも訝し気な目を向けられた。こっちは結構真剣だっていうのに。

「あんたは?」
「ある人から恭弥の家庭教師を頼まれてる」
「ふぅん…」
「悪いな。あんたの素性が分からない以上詳しい事は話せないんだ」
「別にいいさ」

 元々まともな回答は期待していなかった。素性さえ誤魔化されると思っていたのが正直なところ。

「あんたが悪意でもって恭弥を傷付けさえしなければ」

 私の本題はこっち。


「――何してるの」


 だというのにここで邪魔が入った。ある程度予測はしていたとはいえ、せめて言質がとれるまで待ってくれればいいものを。

「ただ話してただけだぜ?」
「…どうだか」

 ふらりと、それこそ気まぐれな猫のように現れた恭弥は、《跳ね馬》の言葉を受けて酷く胡乱気な視線を私へ向けた。

「あなたはそのつもりかもしれないけどね」

 なんというか、もうバレバレだ。

「人聞きの悪いこと言うなよ」

 批難する言葉には自分でも驚くほど説得力というものがない。

「まだ何もしてない」
「まだ?」
「まだ」

 揚げ足取りに繰り返して笑う恭弥はあからさまに愉快そうな顔をした。

「ちゃんと決めただろ」

 とんでもない。

「君が勝手にしていいのは僕の目の届かない範囲でだけ。ここで何かするのはルール違反だ」
「わかってるよ」

 引き際は分かってる。恭弥に見つかった時点で私は引くしかない。恭弥が私に対して寛大なのは、お互いのテリトリーが確と守られている間だけだ。
 

「それと、誰が野良猫だって?」
「お前いつからいたんだよ」
「注意力が足りてないんじゃない」


「じゃあなんて言えばいい?」
「そんなの自分で考えなよ」
「カレカノって言うぞ」
「好きにすれば」

「うわぁ…」

「あんた、顔真赤」
「うるさい」
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