「ねぇ、まだ?」
もういいだろうと、背中へ回った恭弥の手は容赦も遠慮もなく私の髪を引く。
「まだじゃない」
ぐいぐいやられて、仰け反りそうになるのを耐えたらそれはそれで頭皮の被害が甚大だ。
やり方が子供じみてる。
「もういいから引っ張るな、抜ける」
駄々っ子の手を抑えて体を離すと、恭弥を押し付けていた服の惨状が顕になった。血まみれ、というにはまだ足りないが、取り返しがつかない程度には血が染みてしまっている。
「おっまえなぁ…」
話の途中で急に自分から擦り寄ってきたのはこのためか。
「なに」
「擦るなって言っただろ、傷が残ったらどうすんだ」
「残らないよ」
何を根拠に、とは言い返せなかった。
「残ったことがない」
これまでそうだったのだからこれからもそうなのだと、分かりきった顔で乾いた血の張り付いた唇を舐める。
本当に分かってやっているのならとんでもない。
「手当する人間の腕がいいからな」
「手当?」
あれが? ――揶揄するようでいて、心の底から酷くおかしそうに笑った恭弥は機嫌が直ったのか、そのままふらりと屋上を出て行った。
「あんたの事は殴らないんだな」
「引き金は引くがな」
「は?」
この自由人め。
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