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「…今日は騒がしいから」
「そう?」

 首を傾げながら、匠は一瞬視線をあらぬ方へ流した。それは正に私が「騒がしい」と思っている部屋のある方で、耳を澄ますよう目を閉じた匠は少しの間そっと呼吸を抑える。

「――…耳がいいんだね」

 そうまでして、結局私と感覚を交わらせることは出来なかったらしい。

「何も聞こえない、って顔してる」
「うん、聞こえなかった」
「人がいるの、わかる?」
「知ってはいるよ」
「五人」
「…四人じゃなくて?」
「五人よ。四人と一人」
「そう…」

「嫌なことがあったら言えって、言った」
「うん、言ったね」
「なんでも?」
「どんな些細なことでも」
「……」

「二つ隣の部屋」
「今人がいる?」
「あそこまでなら人がいると分かる。耳を澄ませば何を話しているのかも」
「凄いね。…あ、だから眠れないのか」
「そう」
「じゃあ、静かにさせないとね」

「ここは物騒なところ」
「…ごめんね?」
「でもあなたは私を叩かない。だから言うんだけど…」

「明日は車に乗らない方がいいと思う」

「――そうするよ」
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