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 きっちりと封をされたビンが、幾つも幾つも薬棚に並んでいた
 けれど、それは単に持ち主の趣味で、別段危険な薬品というわけではない
 たった、ひとつを除いては・・・

「先生、いい加減ビンの口テープで止めるのやめませんか?」
「う~ん、でもそれは単に趣味とか、癖だからねぇ」
「だから、やめるよう努力してください」
「うん、今度ね」

 二人の人間が、薬棚と棚の間でせわしなく動き回っていた
 いや、実際動き回っているのは15,6歳の少女だけで、もう一人の男は、白衣を肩にかけ少女にあれやこれやと指示を出しているだけなのだが・・

「あ、あと一番上のそれね。高価だから落とさないように」
「なら先生とってくださいよ~」
「大丈夫。地上三階から落としても割れないビンだから」
「先~生~?」
「ほらほら、急がないと間に合わないよ」
「・・・」

 さっきからからかわれている様に感じている少女は、自分が先生と呼ぶ男を睨み付けるが、男は気の抜けるような笑みでそれをかわす

「あ、あと一番奥の、上から二番目ね」
「はいはい」

 少女は疲れたように溜息をつき、薄暗い部屋の奥へと進む
 見えないので手探りでビンを探し、半ば適当に、それらしいビンを手に取った

「急げ~」
「今行きます!」

 持っていたかごにビンを放り込む
 ビンは甲高い音を立てるが、どうせ割れるようなものは無いのだ
 ガチャガチャを音を立てるかごに眉を顰め、少女は足早に、薬棚の並ぶ小部屋を後にする










「先生、これでいいですか?」
「ん? ちょっとまってね」

 少女がかごに入ってたビンを次々とテーブルに並べ、それを男が確認しつつ、作業の手順通りに並べてゆく
 けれど途中で、男の手が止まった

「僕、こんな薬頼んだっけ?」

 その手に持たれていたのは、他のビンとは違い、多めに埃を被り、紙テープで封をされた薬・・ケース
 外側の形は他のビンと変わりなく円筒形だが、硝子で作られたそれには、中にほんの数ミリ程度の液体と、小さなカプセルが入れられている
 そして紙テープの封は、危険物を示す赤色・・

「あ・・もしかして間違えてますか?」

 ビンを入れていたかごを片付けようとしていた少女が、首をかしげ立ち止まる
 男は、片手で硝子のケースを玩びながら、少女を見やった

「う~ん、僕が片付ける場所間違えてたんだと思う、多分」
「・・・?」
「だって、君そういうのだけは間違えたことないし」
「そ・・うですか?」
「うん。それに、前の助手が間違えたのかも」
「前って・・」
「けっこう前だね、うん」

 会話をしながらも、少女の視線は男の手の中にあるケースに釘付けになっていた
 くるくると回って、宙を飛んでは、男の手にキャッチされる
 曲芸ではないのだし、危険物なのだからやめてほしいというのが、少女の本音だ

「で、それなんですか?」

 けれど少女は、割れたら男のせいだと割り切って、好奇心半分で質問をする

「ずっと昔に作った、用途大量殺戮な薬」

―――ガタッ

 男の言葉に、少女が持っていた機材が床に落下した

「液体の方は、大気中に出ると霧散して・・多分一ヶ月くらいで、確実に世界中の生物を殺せるんじゃなかったかな?」

 今もなお、その危険な液体は男の手で数秒おきに宙を舞っている

「カプセルの方は、水に溶かすと何倍に薄めても効果が薄れず、しかも水蒸気になっても人が殺せる便利な薬」

 少女は、言葉が声にならないのか、口を何度も開いたり閉じたりしながら、数歩壁際に後退した

「でも、使った本人も死んじゃうから、結局いらないっていわれたんだよ。確か」

 せっかく作ったのになぁ・・

「そ、そんなもの普通に置かないでくださいよ・・」

 男の背後で、少女が心臓を抑えながら唸った

「だって、捨てるのもったいないじゃないか」

 懲りた風もない男が、少女に向かってケースを投げる

「ほら、パス」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

―――ガタンッ

 少女に少し手前に落下したケースの中の液体は、鮮やかな七色に輝いていた
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