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「サクラ姫の羽根を持った領主、ね」
「聞かれますよ」
「誰に?」



 庇で柱に寄りかかりながら「Bloody moon」を煽っていたカーティアは、姿を現したヘルガにさして気にしたふうもなく「君こそ見つかるよ」と警告ともつかない言葉をかけた。



「見つかると困りますか?」
「いいや」



 事も無げに首を横に振り、空になった杯を満たす。



「別にどっちでもいいんだよ」
「・・・」



 その様子を庇に立ったヘルガは必然的に見下ろすような形になり、凝視してくるその視線に気付くとカーティアは紅い液体で満たされた小瓶を庇に置いた。



「ヘルガ?」



 俯けていた顔を上げ、心持ち首を傾ける。



「戻りましたね」
「何がだい?」



 漆黒と見紛う程に深い紺色の瞳に映る自分の姿を目に留め、ヘルガは軽く目を伏せると緩く首を振った。



「何でもありません」



 そして音もなくカーティアの中へと戻る。
 残されたカーティアは小さく笑いを噛み締めながら目を細めた。



「そうかい?」



 全てお見通しだと言わんばかりの視線はどこかここでない遠くを見つめているようで底知れない。
 掌中の杯から「Bloody moon」が消え失せると小瓶ごと杯を消し、カーティアは柱に寄りかかったまま片膝を立て、そこに腕を乗せると目を閉じた。



「じゃあそういうことにしておこうか」



 意識は漆黒の海へ。
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