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 呪いを、かけてあげましょう。





「これは、私の」

 ラスティールが宣言すると周囲は騒然としたが、止めようとする人間は誰一人としていなかった。元々生まれるより早くに死ぬ事が決まっていた子供だ。ラスティールが引き取るというのなら、その方が良いに決まっている。それ以外に子供が生きる方法がはないのだと、誰もが理解していた。

「ラスティール、さま…」

 子供の母――ミデン――は縋る思いでラスティールを呼び、我が子へ手を伸ばす。生まれたばかりの子を抱きたいのだろうと、彼女を囲む人間たちは気付いた。だがラスティールや彼女の同族達にとってそんな親心、何の意味もない。子は既にラスティールの物だ。彼女がそう宣言した時点で、ミデンは子の親ではなくなっている。

「子供の事は残念だったわね、王妃」

 よってラスティールの言葉は彼女たちにとって適切だった。そもそもラスティールはこの場へ子供の死に立ち会うため来たのだから、何も間違っていない。おかしいのはむしろ生きている子供の方だ。

「そんな…」

 ミデンの側仕えの一人が、その場にいる人間全員の心境を代弁する。誰も正面切ってラスティールを非難する事は出来ないのに、目ばかり雄弁だった。
 恨みがましい視線にさらされメルメリがさも気分を害されたとばかりに鼻で笑う。窘めるようメルメリの肩に手を置いたニクスは、自ら主たるラスティールの代弁者として口を開いた。

「お気の毒さま」





「ニクスきっつー」

 けらけらと笑いながら、緩い駆け足でラスティールを追い越したメルメリが振り返る。

「きつくない」

 左右の高い位置で結われた蜂蜜色の髪が弧を描き、その動きを見るともなしに目で追いながらニクスは無感情に答えた。真実代弁者であったニクスに他意は無い。そこが厄介な所だ。分かっていてやるメルメリと違って加減というものを知らない。

「それにしても良く寝てるわねー、その子」
「ラス様の魔法」
「あ、やっぱり?」
「呪われた子。産声さえ疲弊した人間には危険」
「あんな王妃死んじゃえばよかったのに」
「ラス様魔王。人間殺す無理」
「事故死と故殺は違うでしょー?」

 
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