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「ヴェール」

 虚空へ一度、短く声をかけて並び立つニクスとメルメリに目配せする。二人が同時に頷くと、前触れも無く周囲の景色は一変した。


「おかえり」


 《空間》を操る魔族ヴェールは、青い薔薇の咲き乱れる園で私たちを迎える。そこはもう王宮の廊下ではない。《青の離宮》の周囲に広がる《迷いの森》で神封じの結界の一端を守る東屋の一つだ。

「「ただいま」」

 声を揃えた二人はそのまま姿を消す。二度目の《空間転移》は王宮の結界に阻まれる事が無いため自力だ。

「…気になる?」

 二人に続こうと魔力を紡ぎかけて、腕の中へ注がれるヴェールの視線に気付く。

「後でね」

 悪戯っぽく笑って言うとヴェールは驚いたような顔をした。気にせず魔力を紡いで《次元の狭間》を飛び越える。
 銀色の軌跡を纏いながら降り立った青の離宮のエントランスホールには、ニクスとメルメリ以外の同族の姿もあった。

「この子はシーリン。私のだから、リー以外は触っちゃ駄目よ」
「言いたい事はそれだけですか」
「えぇ」

 とりあえず釘を刺して、さも不機嫌そうなレイを笑顔でやり過ごす。呼ばれる前に自分から現れたリーは何もかも心得た顔でシーリンを受け取った。

「よろしくね、リー」
「はい」

 これでレイの事は問題無い。

「…後で面倒な事になっても知りませんよ」

 リーの笑顔に二秒と耐えられずレイは姿を消した。それを見たソルが「意気地の無い」と仕方のない事を言いながら唇の端を持ち上げる。「ポーカーフェースが崩れてるよ」と、静かに指摘するヴェールもにやけ気味だ。

「私はもう決めた。後はお前たちだ」
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