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 巨大な緑色の芋虫が高層ビルの壁面に張り付き強化硝子を咀嚼している場面を目の当たりにして、さてどうしたものかとシーリンは小首を傾げた。ワームと呼ばれるその芋虫は人間にとって恐ろしく有害だが、その存在を認知出来る者は少ない。駆除できる人間はそれ以上に希少だ。

「シーリン?」

 迷ったのは、一瞬にも満たない刹那。

「用事思い出した。抜ける」

 大して楽しくも無い付き合いの買い物とワーム。シーリンの中で天秤はあっけなく後者へ傾いた。くるりと体を反転させ肩越しに手を振るシーリンに、連れ立って歩いていた級友は肩を落とす。

「また例のバイト?」
「ん」

 二人で歩いてきた道を一人で引き返すシーリン。置き去りにされた級友はゆるゆると首を左右に振りながら溜息をついた。

「ばいばい」

 声を張り上げるでもなく独り言のように呟かれた形だけの挨拶は、足早に人混みを縫うシーリンには届かない。別れた級友が振り切るように自分へ背を向けた事も知らないまま、シーリンは何度か道を曲がり小奇麗な雑居ビルに入った。適当な階の適当な部屋に潜り込んで鍵をかけたら、付けっぱなしにしていたゴーグル型の視覚デバイスを外して携帯端末を取り出す。座り込んだ床は冷たく寄りかかった壁は硬かったが、そんな事シーリンには関係がなかった。邪魔さえ入らなければそれでいい。
 携帯を握りしめたまま目を閉じたシーリンが次に目を開けた時、そこは小奇麗な雑居ビルの一室ではなく高層ビルが立ち並ぶ大通りだった。
 視線の先には二匹のワーム。強化硝子にぽっかりと開いた大穴が彼らの食欲が旺盛である事を物語っていた。放っておけば厄介な事になるのは目に見えている。だからと言うわけではないが、シーリンは素早く右手を上げ左から右へ凪ぐように払った。同時に組み上げられた呪文[スペル]は完成と同時に発動してワームに火を付ける。図体ばかりの芋虫二匹はあっけなく火達磨になってぼとりとビルから落ちた。

「――よし」
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