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小噺専用
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 主よ。救いたまえ――。

 祈りは届かず、願いは潰え、望みの絶えた世界。神の不在によって訪れた暗黒時代。混沌とした世の中を生きるためには「力」が必要だ。――いつか「ハンプティ・ダンプティ」と呼ばれることになる男。「つぶれ卵」ことトートは考えた。
 欲しいものは奪うしかない。奪われたくなければ戦うしかない。
 奪い、戦い、時に負け、けれどおおよそ勝ち続けた男。トートはいつしか「最強」と呼ばれるようになった。最強の男トート。死神トート。トートは誰より強くなった。最強だった。――けれど死んだ。わりと急に。だが何を思い残すようなこともなく、あっさりと。死んで、生き返った。いや正解には「生き返らせられた」。墓穴の底でぐっすり眠っていたところを叩き起こされたのだ。埋められてから十五年と少し。とっくに朽ちていておかしくないはずの体がどういうわけか生前そのままだった理由をトートは知らない。棺桶の蓋が開かれてから今に至るまで、そんな基本的なことを尋ねる機会さえ得られぬまま、トートは巻き込まれていた。

「とりあえず、俺はこいつらを皆殺しにすればいいのか?」
「よろしくお父さん!」

 ――そう、トートは実の娘らしき少女に掘り起こされた。まったくなんて罰当たりなやつだと思ったが、一目見て自分と母親だろう女の遺伝子を3:7くらい受け継いでいそうだったので言うのはやめた。二人とも無神論者だったからだ。

「それで話が済むと思ってんのか、スー!」
「拾ってやった恩を仇で返しやがって!!」

 周囲の騒音にトートは顔を顰めた。自分の娘がぎゃーぎゃー言うならまだ許せるが、生前からトートは喧騒より静寂を好む性質だ。煩い輩は力づくで黙らせてきた。周囲を取り囲んでいる連中など物の数にもはいらない。どうやら飛び道具を使ってくる様子もないので、余裕も余裕。

「そこ、座って、動くな」
「はいパパ!」

 掘り返された墓穴の脇。暴かれた棺の影に娘――スー――が座り込むのを見届け、トートは十五年と少しぶりに拳を振るった。

「『パパ』って柄かよ、俺が」

 圧勝だった。



---



別テイク

「はじめまして、お父さん。娘です」

 少女は開口一番そう言って、懐から取り出した拳銃で部屋の入口に立った男をずどん。

「さっそくですが逃げましょう。もうここに用はありません」

 いけしゃあしゃあとのたまう顔は、昔馴染みとよく似ていた。

 そうして娘と名乗った少女がトートと逃げ出したのは、こじんまりとした病院。だが外観と内情が噛み合っていないことは、生き返ったばかりのトートにさえわかった。
 娘は病院のエントランスへ突っ込むよう停めてあった車に乗り込むと、穴だらけのフレームや死屍累々の周囲に頓着することなく、エンジンを始動させた。ブレーキをいっぱいに踏み込んだままアクセルを吹かし、その場で半回転すると颯爽と病院を飛び出していく。
 中身もあいつに似やがったな…と、トートは見覚えのない町並みへと目を凝らす。

「お前、いくつだ?」
「23」
「年上じゃねぇか」
「…そういえば、父さん二十歳で死んだんですっけ。年功序列を気にするタイプなんですか?」
「気にしねぇ。が、娘より年下ってのはさすがに思うところがあるな」
「じゃあ娘と思わなくていいです」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ、馬鹿が」


--


「――よくもやってくれましたねこの腐れ外道。人の父親の体を実験に使うだなんて。有罪です。極刑です。超法規的措置も許可されます。執行官《アイギス》スーがここに宣言します。あなたの罪は今ここで、私によって裁かれます」


---


「不死身の兵士を作ろうとしていたのです。お父さんは完成形です。記憶を弄られる前に助け出せてよかったのです。お母さんに怒られずにすみます」
「…あいつ生きてんのか」
「とっくの昔に死にました」


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 空の、とてもとても高いところに浮いている、竜の都のお姫さま。魔除けの銀をその身に纏う、真赤な宝石の目を持つお姫さま。
 ある日、はるか地上の国の騎士さまが、竜の都へやってきて、竜のお姫さまが持つ、たった一つの宝でお国を救ってくださるように、どうかどうかと頼まれました。
 心優しい姫さまは、お国のためなら仕方がないと、大事な宝を手放され、道端の石ころを一つ拾ってくると、それを大事な宝の代わりにしようと考えました。
 そうしてはるばる竜の国までやってきた、騎士さまの、地上のお国は救われました。

 めでたし、めでたし。





「――と、いうわけで。お前、国に戻されることになったから。今日中に身仕度済ませるように」
「はぁ…」

 いったい何が「と、いうわけ」なのか。わからないなりに、扉を開け放つなりおそらくとんでもないことを言い放った女性――エレイン・ヴィルヘルミラ――の勝手気ままな言動にも慣れっこなカッシュは、「あーよっこらせ」と居心地の良い出窓から腰を上げた。

「サーシャも連れていいっていいんだよね?」
「騎竜の一匹もいないと格好がつかないだろう」
「…ま、確かに」

 カッシュにとって大切で、必要なものというのはそうない。姉に貰った本と、姉が仕立ててくれた服と、姉から贈られたものの全て。
 それと、サーシャ。

(サーシャは騎竜というより恋人なんだけどなぁー)

 まぁ、いいか。
 読みかけの本をそのまま書架へと戻し、カッシュは何やら立ち読みを始めたエレインに一声かけ、他ならぬ彼女の私的な書庫を立ち去った。

 長いこと暮らしている城内をあちこちへの挨拶がてら歩いていると、どうやら、生国で双子の弟が死に、世継ぎの王子がいなくなったため、やむなく竜都へ預けられていた「忌み子」のカッシュが呼び戻されることになったらしい…と、エレインが説明を省いた大凡の事情がわかってくる。
 エレインが国へと返すカッシュの「代わり」にと使者の一団を率いる竜騎士団の長を望み、団長もそれを二つ返事で承諾したという――ある意味で今世紀最大の――スキャンダルに沸く城内。渦中のカッシュが情報を得るのは、比較的容易かった。どうして本人をすっ飛ばしてそんなことに…と、思わなくもないが。竜都における公式の立場が「竜姫のペット」であり、次代の竜帝の所有物でしかないカッシュにどうこう言える筋合いもない。
 そもそも生国から正式に要請があれば返還に応じるというのが現竜帝――ひいては竜都――の方針だ。それでも頑として拒否すればエレインが何としてもここへ留まることができるよう動いてくれることをわかっているだけに、カッシュは聞き分けよく生国へ下るしかない。何より、元はと言えばエレインに拾われた命だった。エレインのいいように。エレインが本当に「欲しいもの」とトレードされたというのなら、まだ納得もできる。
 聞くところによると、使者の一団を率いて竜都に入った竜騎士団長というのは大変な美丈夫で、エレインと同じ銀の髪を持ち、真夏の空のよう青々とした目の――竜さえ霞ませるほど凄絶な美貌を持つエレインと並べても見劣りしないほど、並の美女では隣に立つことさえ躊躇われるほどの――男らしい。
 正直この世にエレイン以上の美貌の主はいないと確信しているカッシュも、些か気になる触れ込みだった。銀髪というのも、カッシュの生国では珍しい。主流は――カッシュもそうだが――金髪紫眼だ。銀髪が多いのは隣の大国。戦争中というわけではないが、けして関係良好でもない他国の血を色濃くその身に宿した男が国の要とも言える竜騎士団の長。これいかに。

 はてさて首を傾げながらも自室へ戻ったカッシュは、部屋に入ってまず、人一人分こんもりと盛り上がった寝台へと近付き、上掛けをひっぺがした。

「ふわっ!?」

 いかにも「驚きました」といった具合に飛び起きたのは、少女時代のエレインによく似た美貌の少女。ただしあくまで「よく似ている」というだけで、全く同じ造形でも表情の出し方一つでここまであからさまに違ってくるものか…と、使い魔として彼女を造った本人(エレイン)でさえ首を傾げてしまうほど、その少女はエレインからかけ離れて幼く、あどけなかった。
 一目見れば誰にもエレインでないとわかる。

「なんだ、カッシュかぁー」
「もうとっくに昼過ぎてるよ、お寝坊さん」

 見かけどおりに幼い仕草で目元をこすり、欠伸を零す少女――サーシャ――が寝台から下りるのに手を貸してやり、カッシュは自分も人伝にしか知らない事情を簡単に説明した。

「えー、じゃあもうカッシュとさよならだね」
「えぇー、なんで迷いなく残る体(てい)なの。サーシャも来るんだよ」
「サーシャはエレインと一緒!」
「姉さんは俺と一緒。サーシャは一人で竜都に残るの?」
「エレインがカッシュと一緒ならサーシャもカッシュと一緒!」

 分別もろくにつかない子供を言い包めて拐かす悪い大人になった気分で、カッシュは「よくできました」とサーシャにご褒美のキスをした。
 ノリノリである。





(第七書庫)


 男女の友情なんて成立しないのよ。
 そうかなぁ。
 だって男は体が目当てだし、女は顔が目当てなんだもの。
 ふぅん。
 だからね、あんたも気をつけるのよ。油断してるとぱっくりやられちゃうんだから。
 はぁい。



「この会話を踏まえた上で、かえで君何かコメントは?」
「とりあえず俺たちの関係は恋人で合ってるよな?」
「コメントは?」
「おい」
「えー、なにー? さくらちゃんきこえなーい。さっさと答えてくれなきゃドタマに攻撃魔法ぶち込んじゃうぞー」
「さくらさん、さくらさん。そう言いつつ拳を構えるのは何故ですか」
「痛いのと苦しいの、どっちがいーい?」
「いやだから友情というか俺たち恋人同士だからな!? お前が顔目当てなのは知ってるけど俺は体ばっか欲しい訳じゃないから!! それもないと困るけど!」
「正直者だね、かえで君」
「おかげさまで…」
「ご褒美にさくらちゃんがいいことしてあげましょう」
「え」
「くちとー、てとー、どっちがいい?」
「お前…狙いすましたかのようなマウントポジションでそれ言う? 三つ目の選択肢は…?」
「あし?」
「うわぁ…」



「私は世界を切り取ることが出来るの」

 そう言ってその子は笑った。少しだけ日に焼けた顔で誇らしげに、両手の人差し指と親指で枠を形作りながら。
 白いTシャツに、青いデニムのショートパンツ。――今時、真夏を舞台にした小説でも見かけないような格好に、たった一つ首から下げた青いカメラだけが浮いている。

「そのカメラで?」
「えぇ、そうよ」
「それなら俺にだって出来るよ」

 パステルブルーの、丁寧に使い込まれたデジカメでなくてもいい。まともなカメラさえあれば、誰だって世界を切り取ることが出来るはずだ。
 けれど彼女は小馬鹿にするような顔でカメラを構える。「無理よ」と、断言する声には根拠の知れない自信が満ち満ちていた。

「なんで」
「なんでも」
「なんだそれ」

 カ、チ。

「私だけが出来るのよ」
「…切り取られた」
「今のは違うから大丈夫」
「違うって?」
「ただ写真を撮っただけ」
「どう違うんだか」
「知りたい?」
「知りたいような、知りたくないような…」
「どっちよ」

 カ、チ。カ、チ。カ、チ。

「いつまで撮ってんの」
「んー…気分?」
「楽しい?」
「結構」


 人は何故生きているんだろう。どうせ死んでしまうのに生きてるってなんだか気持ち悪い。
 人が幸せになるために生まれるなんて嘘よ。だってもし人が幸せになるために生まれるのなら、幸せでない人に存在価値はない。幸せじゃない人は、生きながら死んでいる。
 人はきっと、死ぬために生まれるの。死は幸せなんかと違って誰にでも平等に訪れる。私もいつかは死ぬし、死神は例外なく全ての人を手に掛ける。
 幸せになるためなんかじゃない。人はいつか死ぬために生まれて、生きる。全ての人がいずれ自分の元に死が舞い降りることを知っている。

 だから私は生きている。

 幸せになるためなんかじゃない。幸福は不平等だから、私はそんなもののために生きたりはしない。
 でも、もし、私の元に幸せと呼びうるものが舞い降りたら、その時は――

「僕には君が必要です」

 私はその幸福のために生きよう。

いつからだろう、私が変わっていったのは
いつからだろう、一人が怖くなったのは

昔は平気だった一人でいるということが怖い
昔は平気だった他人と違うことが怖い
皆と同じ振りをして自分を殺さなければならなくなったのは、一体いつからだろう

あなたに逢ってからかな
それともそれ以前?
もしかしたらあなたとは全然関係ないのかも

いつからこんなに臆病になった?
いつから他人の傍にいることが心地よくなった?
一人でいることにたとえようのない不安を感じ
どうして自分を殺してまで作り笑いをしていたいの?

あの頃から変わらないものなんて何一つない
あなたも変わった
きっと私も変わってる
でもなんでこんなに怖いんだろう
二人で変わるなら怖くないと思ってた
でもやっぱり私が臆病なのは変わらない
だってそうでしょう?

一緒じゃなきゃ変われない

いつからこんな風になっちゃったんだろう昔は違ったよね
私は独りだった一人で独りだった。あなたは違った
いつからこんな風になっちゃんたんだろう、もしかして私だけかな
あなたは昔から変わらなくて私だけが変わっちゃったのかな

一緒にいたかった
だから他人と違うことが怖かった
一緒にいるために自分を殺した
でもそれは本当に私があなたの傍にいるための最良?
最良が最善ではないんだよとあなたは言うけど、私にはわかんないよ

どうすればよかったんだろう、答なんてないのに
どうするべきだったんだろう、もう終わっちゃうのかな
一緒にいるのは本当に楽しかったんだよ
でも同じくらい苦しかった
離れている時間が長くてそうじゃない時間はあっという間で
一人でいることが怖かった
傍にいてって言えたらよかったのに

きっと私たちの最善は私の考える最良とは程遠かったんだね
だから私は一人が怖くてあなたのいない部屋で泣く
あなたの最善はどうだったのかな
もしかして本当は、最初からうまくいく方法なんてなかったのかもしれない

おはようもおやすみも一緒にしてきた
あなたのいない場所で私は息の仕方さえ忘れる
はじめましては憶えてないけど
さよならだけは絶対に忘れないでいられそう

〝さようなら〟

あなたと離れたって私が生き返ることなんてないのにね

貴方がくれた命なの
だから貴方のために捨てることなんて怖くないわ

貴方のためだけに存在しているんだもの
貴方の手となり足となり共に朽ち果てるまで傍にいる

でも、貴方が要らないというのなら潔く死を受け入れる
貴方が邪魔だといえば大人しく姿を消す
だから命じて、私の命を繋ぐ人

たった一言でいいから

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