「私は世界を切り取ることが出来るの」
そう言ってその子は笑った。少しだけ日に焼けた顔で誇らしげに、両手の人差し指と親指で枠を形作りながら。
白いTシャツに、青いデニムのショートパンツ。――今時、真夏を舞台にした小説でも見かけないような格好に、たった一つ首から下げた青いカメラだけが浮いている。
「そのカメラで?」
「えぇ、そうよ」
「それなら俺にだって出来るよ」
パステルブルーの、丁寧に使い込まれたデジカメでなくてもいい。まともなカメラさえあれば、誰だって世界を切り取ることが出来るはずだ。
けれど彼女は小馬鹿にするような顔でカメラを構える。「無理よ」と、断言する声には根拠の知れない自信が満ち満ちていた。
「なんで」
「なんでも」
「なんだそれ」
カ、チ。
「私だけが出来るのよ」
「…切り取られた」
「今のは違うから大丈夫」
「違うって?」
「ただ写真を撮っただけ」
「どう違うんだか」
「知りたい?」
「知りたいような、知りたくないような…」
「どっちよ」
カ、チ。カ、チ。カ、チ。
「いつまで撮ってんの」
「んー…気分?」
「楽しい?」
「結構」
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