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小噺専用
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 男からしてみれば、女の行動は酷く愚かしいものだった。故に男はなんの躊躇いもなく力と、右腕を揮う。――ガシャンッ――。近くに止められていた車のフロントガラスに女は背中から放り込まれ、哀れ何の罪もないガラスの砕け散る音が男の耳朶を打った。男は、笑う。



「ざまあ、みろ」



 女はボンネットを蹴りつけるように跳躍した。男は頭上を仰ぎ、また力を揮う。――ぐわん――。奇妙な音が女の耳元で揺れた。



「ははっ」



 血の雨が降り注ぐ路上に男の乾いた笑い声が落ちる。一瞬で全身を切り刻まれた女は肉塊となってアスファルトの大地に落ちた。全身に浴びた鮮血の温もりを楽しむように肌の上で伸ばし、男はうっとりと目を細める。



「よわっちいやつ」



 つるつると、手の平はとても滑らかに肌の上を滑った。




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「何を考えている?」

 カランと音を立てたのはグラスの氷

「お前に言うようなことじゃないさ」

 クラリと揺れるのは俺の理性

「冷たいな」

 誰よりも冷めた心を持っているくせに人の温もりを欲しがる
 我侭な女。全てを手に入れようなんて強欲にもほどがある

 首筋を這う五本の指に目眩がした
 カラカラとグラスを揺らしお前は俺の顔を上向かせる

「んっ・・」

 不意打ちにあったのはお前。仕掛けたのは俺の方
 滑り落ちたグラスの音は毛の長いカーペットが飲み込んだ

「落ちた」
「どうせ空だろ」

 人を喰ったようにしか笑わないお前。笑いもしない俺
 俺の手から取り上げたワイングラスを揺らしお前は笑う

「これは違う」

 グラスの割れる音はしなかった

「酷いな」

 細く長い腕を引き腰を抱き寄せ俺はお前の首筋に顔を埋める
 鼻につくのは男を誘う甘い匂い
 真っ赤な唇に吸い寄せられ口付けた



 高価なカーペットに広がった染みはお前と同じ、ワインレッドの――



 俺はお前の名を知らない
「Bye」

それが君の口癖

「さ、次の街に行きましょ」

僕はいつも君の隣を歩く
前だけを見つめ、絶対に振り向くなんて事はしない

「邪魔よ」

ザシュッ

「アハハハハ!」

君の背後はいつも地獄絵図

「どうしたの?」
「なんでもないよ」
「そ」

生きている他人が許せない
のうのうと呼吸する人間が許せない
彼等を殺す権利が自分達にはある。君はそう高々と笑う

「ど・う・し・た・の?」

君は、僕に微笑みかけた

「やっぱり嫌なんだ」

もうずっと前からそう

「じゃあ、どうする?」

僕も君もわかっていたこと

「あんたも、死ぬ?」

僕は見た
今まで数え切れないほどの人間を葬ってきた、君の笑顔を
今まで僕には一度だって向けられたことのなかったそれは、とても・・

「Bye」

悲しげで、今にも泣き出しそうな笑み
キミヲノコシテユクボクヲユルシテクダサイ

「また後でね」

地獄絵図の果て
一人の造られた少女が呟いた
導いて、我等の王
たった一人残された王の血族

「――来い」

差し出された手
ざわめきが広がる

「お前は」

君は言った。僕等は醜悪だと
けれど誘うのか


キミヲオトシイレタコノボクヲ


導いて、我等の王
たった一人残された王の血族

「僕、は――」

風が舞い上がる。この閉ざされた空間で
僕の体を絡めとって離さない
これが誰の意思なのか、僕は知っている

「来るだろう?」
「・・・もちろん」

このまま時が止まればいい
そうすれば、きっと君はいつまでも僕の物なのに

導いて、我等の王
たった一人残された王の血族

僕は今、君の為に生まれ変わろう
「醜悪だな」

そう吐き捨て君は僕等に背を向けた
けれど人々は懇願する

「俺はお前たちなど従える気はない」

導いて

「滅べばいい、お前たちは」

我等の王

「これまでお前たちが見捨ててきた者達のように」

たった一人残された王の血族

「地を這って、そして誰の記憶からも消え失せてしまえ」

導いて、我等の王
たった一人残された王の血族


風が吹いた


閉ざされた空間で不自然に発生した風はひしめく人々を見下した様な目で見遣る男の体を包み、そして攫う
それが血族に許されたチカラ

不意に君は振り向いた

「――来い」

差し出された手
ざわめきが広がる

「   」



コノママ、トキガ――
いつまでもいつまでも暖まらないベッド
さも可笑しそうに声を上げて笑い、少女はベッドを飛び出した

「気分は?」
「最高」

耳鳴りがしない

「面白い奴だな」
「なにが?」

鏡の前に立つ男は肩をすくめる

「望んで人間辞める奴なんてそういない」
「それで?」

世界が暖かい
全てが自分に優しく感じる

「・・・いや」

止まった耳鳴り、それは鼓動

「楽しそうだな」
「もちろん!」

死した体で少女は笑う
冷めたベッド
温もらない体
病んだ心が時を断ち切る
ひやり
頬を撫でる手を振り払った

「触んなよ」

俺はあんたの玩具じゃない

「じゃあ、今すぐ殺してあげましょうか?」

人でない体温が不快
触るな
俺の心まで凍る

「お断りだ」
「まだ気付かないの?」

悪夢だ

「お前は私の息子なのに」
「違う」

世界は人に選択肢を与えない
こんなバケモノばかりが蜜を吸う

「いい加減認めなさい」
「煩い」

人は死ぬ
バケモノは死なない

「お前もバケモノなのよ」

冷たい指先が語る
温かいのは、まだ人でいたいお前の心なのだと
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