「…なぁ、」
「なに?」
「お前今日何か食べたか?」
「……さぁ…?」
「ってか食べてないよな」
「そういえばそうかも」
「腹減らないのか」
「別に」
「まずいだろそれ」
(食べられない話)
----
「ところでシニスはどうしました?」
「霧戦終わってから引きこもってる」
「おやおや」
「軟弱なのよ」
「僕は結構好きですけどね。彼女のそういうところ」
「…そうなの?」
「えぇ。――意外ですか?」
「まぁそこそこ」
「本当にヴィンディチェの牢獄にいるの?」
「えぇ。結構居心地悪いですよ」
「でしょうね」
「…本当は、もう少し上手くやるつもりだったんですけどね」
「なに?」
「シニスの思い込みに負けました」
「…全部予定通りってわけじゃないのね」
「あくまでシニスが本体ですから」
「…そうなの、」
(霧戦翌日)
----
殺気がなくても目に見える攻撃を避けられない恭弥じゃない。
咄嗟に飛び退いた恭弥はゴーラ・モスカの攻撃を無傷でかわした。それを確と見届けて、ミサイルが降ってくる前にと私も駆け出す。
有刺鉄線を軽く飛び越え、踏みつけた砲台を一つ潰したのは「ついで」。そのまま危険極まりないフィールドへ爆煙にも構わず突っ込んだ。
記憶と感覚を頼りに走った時間はそう長くない。
「――恭弥」
程なく合流出来た恭弥は無傷なのに酷く不機嫌で、忌々しそうに暴走するゴーラ・モスカを睨み付けていた。
放っておいたら今にも突っ込んで行きそうだ。
「ちゃんと止めを刺さないから」
「…頭は潰した」
「せめて両目」
(雲戦)
----
「恭弥。お姉ちゃん、って呼んで?」
「おねえちゃん?」
「ん。今日からそう呼んでね」
「なんで」
「私が恭弥のお姉ちゃんだから」
言われてみればたしかにそうなので、その時僕は頷いた。そしてそれきり。
「じゃあね、イツキちゃん、恭弥君。おやすみ」
「おやすみ」
「…おやすみ」
あの人も、それ以外の誰もが彼女を「イツキ」と呼ぶのに。
(素直だけど不満)
----
「イツキちゃん!!」
初めて聞いた匠の悲鳴は赤く濡れていた。
「騒がないで…」
潰れた視界は半分だけ。ならまだ走れる。私は戦える。
「かすっただけだから」
まさか折れるとは思わなかったし、至近距離だったから避けきれなかったけど。本当にかすっただけ。大したことない。血が出すぎるのは傷付いたのが頭なせいだ。
「避けたの…?」
「避けなきゃ死ぬでしょ」
「…凄い反射神経だね…」
「心配した?」
「あたりまえじゃないか…」
「大丈夫だって言ったのに」
(折れた刀)
----
「触るな!!」
「イツキちゃん!?」
「……さわらないで…」
「でも手当しないと…」
「無理。我慢できない。放っといてお願いだから」
「仕方ないな…」
「――きょうや、」
「押さえてればいいの?」
「うん。頼むよ、恭弥君。治療が終わるまででいいから」
「こんなの卑怯!!」
「そうだね」
(理性<本能<弟)
----
「匠、狙われてる」
「え、本当? 嫌だなぁせっかくの休みなのに」
「五、六…――八人」
「八人! 僕一人に随分大所帯だなぁ」
「噂になってるんじゃない」
「うん?」
「最近どこ行くにも私連れてるから」
「あぁ、そうかも」
「こっち」
「やっつけちゃうの?」
「生かしといた方がいいの?」
「リーダーっぽいのくらいは」
「考えとく」
「ごめん、散らかした」
「うーん…まぁ、これくらいならなんとかなるでしょ」
(ぐっちゃぐちゃ)
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「イツキちゃんイツキちゃん。今年の誕生日プレゼントは何が良い?」
「……――学校行きたい」
「…小学校?」
「中学。来年から」
「意外だなー。イツキちゃんそういう群れてるの嫌いだと思ってた」
「嫌いは嫌いだけど、いい社会勉強になるでしょ」
「…きっとつまらないよ?」
「心配?」
「狡い言い方だなぁ…」
「恭弥、私ここ出ていくけど恭弥はどうする?」
「なに、家出? やめときなよ宮内が哀れすぎる」
「ちがくて。来月から中学通うのにここからだと都合悪いから」
「中学?」
「そう。社会勉強に」
「ふぅん…」
「どうする?」
「別に。好きにすれば」
「はぁーい」
(脱ひきこもり)
----
「――もしもし?」
〈あ、イツキちゃん? ちょっとお仕事頼まれてくれないかな〉
「なに?」
〈僕の護衛〉
「…いつ」
〈今から。もうすぐ並中に着くんだけどいるよね?」
「恭弥、匠が来てるからちょっと出てくる」
「君が甘やかすからつけあがるんだよ」
「あれをどう躾け直せと」
「何しに来たの」
「んー、ちょっとね。野暮用」
「人に会うから」
「誰?」
「ドン・ボンゴレ」
「どっ…」
「びっくりした?」
「吃驚もなにも…」
「一応挨拶しておこうと思ってね」
「あいさつ、」
「いくら並盛が勢力的な空白地帯だからといって、実質まとめてるのは君だからね。で、君はうちの九代目」
「…嫌味っぽいのは嫌われるわよ」
「そんなんじゃないよ」
「制服で来ちゃったし」
「いいんじゃない? 可愛いし。学生のうちはそれが正装だよ」
「はじめまして、ボンゴレ・ノーノ」
「お嬢さんと会うのは二度目だね」
「…その節はどうも」
「綱吉君の守護者のお姉さん、であってるかな?」
「えぇまぁ」
「この子は僕の孫で藤堂イツキ。うちの九代目なんですよ」
(埋まっていく外堀)
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