――紡がれなかった命――
「どうやって動いたんだろう」
純粋な好奇心で満たされたハルカの言葉に対する答はない。常識的に考えて、体を制御するために必要なプログラムの一切を持たない人工生体が動くはずはないし、今見た限りでは、〝彼女〟はちゃんとした自我を持って行動していた。
「カノエ」
「はい」
何度データを確認しても、この部屋が完全にネットワークから遮断されていた事実は揺るがない。考えられるのは内側からの汚染。けれど人工生体の中に初めからバグが紛れていたというのも、俄[ニワカ]に信じがたい。
「当該エリアを緊急廃棄。〝椿鬼[ツバキ]〟プロジェクトに関わる全ての情報をAQUAネットワークより完全削除。ネットワーク第二層・ヴィルへのアクセスを一時的に制限。なお、この制限は僕が自室へ帰るまでとする。おやすみ」
矢継ぎ早に面倒な指示ばかり残してハルカはそそくさと部屋を後にした。ガラスケースの封鎖を強制解除したせいで使い物にならなくなった機材と一緒に取り残され、私は少しだけ眉根を寄せながら部屋の中を見回す。
「部屋に連れ込んで何をする気ですか、貴方は」
元凶である人工生体の姿はどこにもなかった。
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