限りある命を持つ者の住む世界――《ミズガルズ》――にある二つの秘境。その一つである《ヨトゥンヘイム》とフィーアラル王国とは、イヴィングと呼ばれる一本の川で隔てられている。
「そんな所で何をしているの?」
隔てるといっても、イヴィング川を渡るのはそう難しくない。それなりの広さはあるがけして深くない川だ。その気になれば、年端もいかない子供だろうと歩いて渡ることが出来る。
だから対岸に一目見て人間だと分かる少女の姿を見つけた時、早く連れ戻さなければと思った。
「どうして子供が…」
ばしゃり、と足下でイヴィングの水がはねる。それがどんなに軽率な行動だったかを思い知るのは、川を渡りきり少女の腕を取ろうとした、その時だ。
「ベクシル!」
一緒に来ていた親友が俺を呼んで、伸ばした右手に激痛が奔る。
「っ、ぁ――!」
ばしゃり。
「この方に触れるな。脆弱な人ごときが」
不快感も顕わにビューレイストは吐き捨てた。男の腕を一振りで切り飛ばした剣には血飛沫一つ付いていない。
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