不意に闇と同化していた気配が動いて、背後から腰と首に手が回る。
やっぱり来た。そう思うより早く首を傾けられ首筋に牙を立てられた。
「っ」
「――どういうことだ」
昨日よりも遥かに少ない量の血を抜かれ、それでもふらついた足を腰に回された腕が支える。
ざらりとした舌がもう消えてしまった傷口を舐め上げた。
「だから言ったでしょ? 襲うならもっと普通の人間にすればよかったのに、って」
「どういう・・」
「呪われてるのよ、私の血は」
「なんだと?」
「欲しかったんでしょ? 私の血が。吐気がしたんでしょ? 私以外の血に」
「・・・」
沈黙は肯定。
「私の血を体内に取り込んだ生き物は例外なくこの血に侵される。24時間ごとに私の血を摂取しなければ肉体は崩壊し、塵と化す。・・逆に摂取し続ければ永遠の命を得られる、私と同じように」
「同じ・・」
「私は不老不死、少なくとも私を所有するプロメテウスの人間はそう思ってる。この血で何度もそういう実験が行われてきた」
「不死族か」
男の両手が腰に回った。
「普通種でも吸血種でも吸魂種でもないけどね」
「純血種だな」
「なにそれ」
「今はもう失われた完全なる不死族。奴らは自分の血で他の生き物を隷属させる、短命な人間共は知らないだろうがな」
失われた。
その一言に心臓が高鳴る。
「どうして純血種はいなくなったの」
声が掠れたのが自分でもはっきりと分かった。
僅かな沈黙の後、溜息と共に男は私の首に顔を埋める。
「始祖鬼クライシスに滅ぼされた。その後からだな、不死族に吸血種や普通種が生まれたのは」
でもそのクライシスももういない。奴がどうやって純血種を殺したのか誰も知らない。
「純血種は死なないの?」
「・・死にたいのか」
「そう、私は死にたい」
「残念だがそれは無理だな、純血種に隷属した者の命は血の主に追従する。俺がお前を死なせない。・・それ以前に純血種は死ぬ事も出来ない」
どんなに甘い夢でも長続きしなければ悪夢でしかない。
一瞬だけ希望をちらつかせてまた現実を突きつける、なんて残酷な仕打ち。
「私を守る? 吸血種の貴方が?」
絶望はしないはずだった。
「ふざけないで」
ガラス張りの宇宙[ソラ]に伸ばした手を腰に回っていた腕が絡め取る。
誰か殺して。そう声を発する前に力の抜けた体を反転させられ、強引に口付けられた。
「ふざけてなんかないさ」
微かに残った鉄の味。呪われた血。
「俺はお前の僕[シモベ]だよ」
解放は許されないと本当は分かっていた。
時が経とうと老いることはなく、傷は数秒で塞がり、体のどこを失おうとすぐに再生する。
呪われた血。呪われた体。人の求める永遠なんてこんな物、得てみれば必要ない、永遠という時の中で狂うほどの感情の起伏も忘れ、ただ過ぎ去る時を見つめ続けていく。
「殺してよ」
リア、貴女は私に何を伝えたかったの。
「嫌だね」
静かに流れ落ちた涙を拭い、そっとベッドに横たわる少女の隣に身を横たえた。
今自分を動かしているのは血による刷り込まれた感情。分かっているからこそ逆らいはしない。
「俺はやっと見つけたんだ」
もう誰も犠牲にしなくていい。こいつがいる限り俺は本能に逆らう事もなく、心も痛めず生きていられる。
「誰が死なせるか」
こんな哀しい目をした女を。
やっぱり来た。そう思うより早く首を傾けられ首筋に牙を立てられた。
「っ」
「――どういうことだ」
昨日よりも遥かに少ない量の血を抜かれ、それでもふらついた足を腰に回された腕が支える。
ざらりとした舌がもう消えてしまった傷口を舐め上げた。
「だから言ったでしょ? 襲うならもっと普通の人間にすればよかったのに、って」
「どういう・・」
「呪われてるのよ、私の血は」
「なんだと?」
「欲しかったんでしょ? 私の血が。吐気がしたんでしょ? 私以外の血に」
「・・・」
沈黙は肯定。
「私の血を体内に取り込んだ生き物は例外なくこの血に侵される。24時間ごとに私の血を摂取しなければ肉体は崩壊し、塵と化す。・・逆に摂取し続ければ永遠の命を得られる、私と同じように」
「同じ・・」
「私は不老不死、少なくとも私を所有するプロメテウスの人間はそう思ってる。この血で何度もそういう実験が行われてきた」
「不死族か」
男の両手が腰に回った。
「普通種でも吸血種でも吸魂種でもないけどね」
「純血種だな」
「なにそれ」
「今はもう失われた完全なる不死族。奴らは自分の血で他の生き物を隷属させる、短命な人間共は知らないだろうがな」
失われた。
その一言に心臓が高鳴る。
「どうして純血種はいなくなったの」
声が掠れたのが自分でもはっきりと分かった。
僅かな沈黙の後、溜息と共に男は私の首に顔を埋める。
「始祖鬼クライシスに滅ぼされた。その後からだな、不死族に吸血種や普通種が生まれたのは」
でもそのクライシスももういない。奴がどうやって純血種を殺したのか誰も知らない。
「純血種は死なないの?」
「・・死にたいのか」
「そう、私は死にたい」
「残念だがそれは無理だな、純血種に隷属した者の命は血の主に追従する。俺がお前を死なせない。・・それ以前に純血種は死ぬ事も出来ない」
どんなに甘い夢でも長続きしなければ悪夢でしかない。
一瞬だけ希望をちらつかせてまた現実を突きつける、なんて残酷な仕打ち。
「私を守る? 吸血種の貴方が?」
絶望はしないはずだった。
「ふざけないで」
ガラス張りの宇宙[ソラ]に伸ばした手を腰に回っていた腕が絡め取る。
誰か殺して。そう声を発する前に力の抜けた体を反転させられ、強引に口付けられた。
「ふざけてなんかないさ」
微かに残った鉄の味。呪われた血。
「俺はお前の僕[シモベ]だよ」
解放は許されないと本当は分かっていた。
時が経とうと老いることはなく、傷は数秒で塞がり、体のどこを失おうとすぐに再生する。
呪われた血。呪われた体。人の求める永遠なんてこんな物、得てみれば必要ない、永遠という時の中で狂うほどの感情の起伏も忘れ、ただ過ぎ去る時を見つめ続けていく。
「殺してよ」
リア、貴女は私に何を伝えたかったの。
「嫌だね」
静かに流れ落ちた涙を拭い、そっとベッドに横たわる少女の隣に身を横たえた。
今自分を動かしているのは血による刷り込まれた感情。分かっているからこそ逆らいはしない。
「俺はやっと見つけたんだ」
もう誰も犠牲にしなくていい。こいつがいる限り俺は本能に逆らう事もなく、心も痛めず生きていられる。
「誰が死なせるか」
こんな哀しい目をした女を。
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