忍者ブログ
小噺専用
80 80 80 80
80 80 80 80
[746]  [745]  [744]  [743]  [742]  [741]  [740]  [739]  [738]  [737]  [736
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 不意に闇と同化していた気配が動いて、背後から腰と首に手が回る。
 やっぱり来た。そう思うより早く首を傾けられ首筋に牙を立てられた。



「っ」
「――どういうことだ」



 昨日よりも遥かに少ない量の血を抜かれ、それでもふらついた足を腰に回された腕が支える。
 ざらりとした舌がもう消えてしまった傷口を舐め上げた。



「だから言ったでしょ? 襲うならもっと普通の人間にすればよかったのに、って」
「どういう・・」





「呪われてるのよ、私の血は」





「なんだと?」
「欲しかったんでしょ? 私の血が。吐気がしたんでしょ? 私以外の血に」
「・・・」



 沈黙は肯定。



「私の血を体内に取り込んだ生き物は例外なくこの血に侵される。24時間ごとに私の血を摂取しなければ肉体は崩壊し、塵と化す。・・逆に摂取し続ければ永遠の命を得られる、私と同じように」
「同じ・・」
「私は不老不死、少なくとも私を所有するプロメテウスの人間はそう思ってる。この血で何度もそういう実験が行われてきた」
「不死族か」



 男の両手が腰に回った。



「普通種でも吸血種でも吸魂種でもないけどね」
「純血種だな」
「なにそれ」
「今はもう失われた完全なる不死族。奴らは自分の血で他の生き物を隷属させる、短命な人間共は知らないだろうがな」



 失われた。
 その一言に心臓が高鳴る。



「どうして純血種はいなくなったの」



 声が掠れたのが自分でもはっきりと分かった。
 僅かな沈黙の後、溜息と共に男は私の首に顔を埋める。



「始祖鬼クライシスに滅ぼされた。その後からだな、不死族に吸血種や普通種が生まれたのは」



 でもそのクライシスももういない。奴がどうやって純血種を殺したのか誰も知らない。



「純血種は死なないの?」
「・・死にたいのか」
「そう、私は死にたい」
「残念だがそれは無理だな、純血種に隷属した者の命は血の主に追従する。俺がお前を死なせない。・・それ以前に純血種は死ぬ事も出来ない」



 どんなに甘い夢でも長続きしなければ悪夢でしかない。
 一瞬だけ希望をちらつかせてまた現実を突きつける、なんて残酷な仕打ち。



「私を守る? 吸血種の貴方が?」




 絶望はしないはずだった。



「ふざけないで」



 ガラス張りの宇宙[ソラ]に伸ばした手を腰に回っていた腕が絡め取る。
 誰か殺して。そう声を発する前に力の抜けた体を反転させられ、強引に口付けられた。



「ふざけてなんかないさ」



 微かに残った鉄の味。呪われた血。



「俺はお前の僕[シモベ]だよ」



 解放は許されないと本当は分かっていた。
 時が経とうと老いることはなく、傷は数秒で塞がり、体のどこを失おうとすぐに再生する。
 呪われた血。呪われた体。人の求める永遠なんてこんな物、得てみれば必要ない、永遠という時の中で狂うほどの感情の起伏も忘れ、ただ過ぎ去る時を見つめ続けていく。



「殺してよ」



 リア、貴女は私に何を伝えたかったの。



































「嫌だね」



 静かに流れ落ちた涙を拭い、そっとベッドに横たわる少女の隣に身を横たえた。
 今自分を動かしているのは血による刷り込まれた感情。分かっているからこそ逆らいはしない。



「俺はやっと見つけたんだ」



 もう誰も犠牲にしなくていい。こいつがいる限り俺は本能に逆らう事もなく、心も痛めず生きていられる。



「誰が死なせるか」



 こんな哀しい目をした女を。
PR
Comment
name 
title 
color 
mail 
URL
comment 
pass    Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]