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「何て間抜けな顔してるの」



 思ったままを口にした後、無様にもずるずると地面に座り込んだ。
 体が思い通りにならないなんて事は初めてで、でも頭は妙に冴えている。



「何で・・」
「それはこっちのセリフよ」



 どうしてちゃんと殺してくれなかったのか。どうして私だったのか。



「襲うならもっと普通な人間がいたでしょ」



 どんなに甘い夢でも長続きしなければ悪夢でしかない。
 一瞬だけ希望をちらつかせてまた現実を突きつける、なんて残酷な仕打ち。



「・・・すまない」
「謝らないで、全部私が悪い。――でも、」



 立ち尽くす血液窃盗犯を見上げて、重い両手を持ち上げた。



「悪いと思ってるなら家まで送って」



 そして目を細める。



































 アナタモマタミイラレテシマッタ



































「あ、あぁ・・」



 何の恐れもなく伸ばされた腕ごと細い体を抱き上げた瞬間、体中の血がざわめく音を聞いた。
 何だ? 刹那動きを止めた俺の胸に寄りかかり、女は告げる。



「B地区のRR、って言えば分かる?」
「大体は」
「そう・・」



 そして眠るように意識を手放した。



































 目覚めてすぐに突きつけられた二つの選択肢。



「我々の研究に協力しろ」



 一つの選択肢は即ち魂の死。



「我々にとって邪魔なものを消せ」



 一つの選択肢は仮初の自由。



「お前が選ぶんだ」



 分厚い防弾ガラス越しに見たのは自分と全く同じ顔をしたもう一人の自分。
 薬によって自我は消され稀に痛みで悲鳴を上げる。
 あれは魂の死。自我が消えれば体が生きていても意味がない。心が死んでいる。
 だから殺すことを選んだ。命じられるままに見ず知らずの人間を殺し、辛うじて自我を守り続ける生活を。
 せめて私が私だと私が憶えていられるように。可哀想なもう一人の私がいることを憶えていられるように。



































 そうし続けてもう5年。
 私は手探りで解放という名の死を探す。



「・・・」



 開け放たれた窓。暗い室内。
 そういえば出かける前に鍵をかけた覚えがない。じゃああの吸血鬼は窓から入って私をベッドに捨てていったのか。



「その辺に捨てて行ってもよさそうなのに」



 案外責任感が強かったのかもしれない。
 半ば冗談で言ったのにちゃんと送ってくれた。名も知らぬ不死族吸血種の男。



「そうしたら私も罪悪感を感じずに済んだ」



 きっと明日には私の前にまた現れる。
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