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「・・・」



 頬に付着した液体を拭い何の躊躇いもなくその場に背を向けた。
 予定通りに耳障りな警報が鳴り響き、大勢の気配が張り詰めた空気と共に動き出す。



「遅い」



 そう呟くと同時に床を蹴り開かれた窓から身を躍らせた。



































 【vamp】



































「仕事だ」



 言われなくても分かってる。
 いつも極力私に関わらないよう行動する奴らが私に近付いてくるのは仕事がある時だけ、だから態々そんな事言われなくても分かってる。
 さっさとして。口には出さず視線だけを上げれば、僅かに目の前の空気がたじろいだ。



「誰?」
「一度家へ戻れ、そこで改めて指定する」
「・・・」



 面倒な事を。



「おい、まだ着替えてなかったのか」
「ここの服なんて薬品臭くて着れない」



 そう、ここは薬品臭くて仕方ない。
 科学者の臭い病院の臭い医者の臭い。私の記憶で一番古い記憶と同じ忌々しい臭い。
 ここの服なんて頼まれたって着るものか。



「ふざけるな、血まみれのまま街に出る気が」
「下を通っていけばいいんでしょ、そのための道」



 扉を塞ぐように立っていた男の横をすり抜け、廊下を進み、階段を降り、鉄の扉を開けてあとは一直線。
 月中に張り巡らされた地下通路が私の前に姿を現す。今もどこかで広げられ、狭められている裏の通路が。



「・・・はぁ」



 研究所の中は息が詰まる。



































 指定された対象[ターゲット]を消去した後はただ夜の街を歩く。行くあてもなく。
 街を照らすのは人工的な灯り、見上げる宇宙[ソラ]には青く輝く惑星[ホシ]。



「――ぁ、」



 不意に、仕事の後で緩みきっていない緊張の糸に何かが触れた。
 目に留まるのは闇を模ったような路地裏。眠らない街の一角で、何故かいつもと変わらないそこだけが不自然だと私の中の何かが告げる。



「お前なの?」



 稀にある。自分の中に誰かが居て、私をどこかに導こうとするような感覚が。
 それはきっともう一人の私。プロメテウスの研究所で実験動物として扱われている、私が選ばなかったもう一つの未来。



「――リア」



 可哀想な子。だから私は決めている。こういう時はその導きに従って、リアの好きなようにさせてやる。私にはその義務がある。
 今はもう不自由な貴女が望むなら、仮初の自由を得た私が叶えてあげる。
 リア、可哀想な子。貴女は私に何を望むの。



「貴女は・・」



 闇を模ったような路地裏には闇を溶かした毛並みの黒猫が――



「私に助けろって言うの?」



 その体を冷たい地面に横たえていた。
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