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「止めだ」



 振り下ろされる刃を防ぐ術が僕にはなかった。
 闘う術を初めから持たない、こんな僕に殺す価値なんてない。



「七つの大罪アスタロス、ヴァチカンの名の下にお前を処刑する」



 ここは平和の国。



「我が名はサン。七つの美徳において希望を司る、汝と対なす者なり」



 全ての不自然を受け入れ、命ある全ての者が平和に暮らせる夢の国。



「Amen.」



 振り下ろされる刃にただただ君の事を思った。










「任務完了。帰還する」



 頬にかかった返り血を拭い、サンは握り締めたままだったナイフをゆっくりと手放した。
 地面に突き刺さったそれの柄に刻まれたのは、銀色の十字架。



「くだらないな」「煌!」



 嘲るように落とした言葉に、女の声が重なった。



「ぁ、・・」
「お前、セイレーンだな」
「煌を・・・煌を殺したの!? どうして!」



 深海の色をそのまま紡いだような蒼い髪に、漆黒の瞳。
 資料として渡されたセイレーンと全く同じ彩色だった。



「人間であるこいつが人間でないお前と交わったからさ」



 つまりこいつも狩の対象。人でない者、異端者。



「っ・・彼は何もしてないわ!!」
「触れ合う事さえ罪なのさ。ヴァチカンにとってお前ら人外は穢れた生き物だ」
「・・・私を殺す?」



 そうだ。何を迷っている。



「殺さない」



 殺さなければならない。



「何故?」
「行け、海に潜ってしまえばもう追われない」
「何でよ!!」



 穢れた生き物なのだ、これは。



「マグダラのドールだって、ただ命令されるがまま狩をする人形じゃないってことさ」
「殺してよっ!!」
「死にたいのか」
「そうよ、煌のいない世界にいたくなんかない」
「・・・そうか」



 所詮いつの日か狩られる運命の下に生まれた命。



「せめて安らかに」



 そして我等は殺す為に作られた命。



「Amen.」



 逃れられない運命なのか、これは。










 失われた命を哀れむように、海が啼いた。
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