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小噺専用
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 俺を呼び続けていた〝人形〟が外の世界でなんと呼ばれているのか、俺は知っている。「絶対少女」――人間と同じ見目をした、愛玩用の人工物。スラムの外でならそう珍しいものじゃない。財布の中に少しの余裕と暇さえあれば、精度はどうであれ子供だって手に入れられる代物だ。
「ちょっと我慢しろよ」
 中の絶対少女が濡れないように、赤い染みの広がった上着で鳥籠を覆う。
 その隙間からスカイブルーの瞳が物珍しそうにスラムを見つめていた。
「ヤマト」
 不意に、そこらにある絶対少女とは比べるのもおこがましいほど精密に、繊細に、完璧といっても過言ではないほど作りこまれた指先が一点を指差す。
 指し示される方向を目で追って、俺は途端憂鬱になる気分と歪む表情を止められなかった。
 今この場にいるはずのない奴が、行く手を塞ぐように立っている。
「――何でお前がこんな所にいるんだよ」
 ここじゃ珍しく名前のある女。ドクターの養い子。
「いちゃ悪い?」
「部屋で寝てろ、ドクターが心配する」
 スラムでは決して治らない病を患った人間。
「サラ」
「そんな声で脅したってダメ」
 お世辞にも、健康的とは言いがたい色の肌が薄暗いスラムで際立つ。屋外にいるということは体調がいいことの証であるはずなのに、今すぐベッドへ押し込めたくなるような顔色だ。
「ドクターのところへ戻ってよキング。昨日撃たれたばかりなのに、なんでこんな無茶するの!?」
「お前には関係ない。戻らなきゃいけないのは、お前だ」
「キングと一緒なら戻るわ」
「……」
 スラムにサラより可哀想な奴はごまんといる。なのにサラを他と同じように切り捨ててしまえなかったのは、その、自分だけが不幸で、可哀想で、傷ついているんだと言わんばかりの言動が、俺がいつの間にか失くしてしまっていた幼さの象徴だからだ。
「じゃなきゃ戻らない」
 なのにどうしてだろう、今はそれが心底憎い。
「あぁ、そうかよっ!」
 忘れていたはずの痛みが叫んだ拍子に蘇り、鳥籠の中で大人しくしていた絶対少女が身じろいだ。
「ヤマト――」
 滑るように抜け落ちる温もり。入れ替わるように体の奥底から冷え冷えとしたものが湧き上がり、鳥籠の中から微かな重みさえ消えた。
「な、なに…!?」
 驚愕に目を瞠るサラの姿を、誰かが俺の視界から追い出す。
 ――大丈夫。
 優しい声が、俺の全てを遮った。

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