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「キングと一緒なら戻るわ」
「……」
 沙良の言葉が和斗を苛立たせ、和斗の苛立ちが零を動かす。
「あぁ、そうかよっ!」
 それは零にとって至極当然のことで、気の遠くなるほど永い間自分を閉じ込め、忌わしい力の手から守り続けてきた鳥籠を出ることに、類稀な絶対少女は何の躊躇いも感じなかった。
「ヤマト――」
 漸く出逢うことの出来た唯一の主。その、尊い名と共に封じられていた力が解放される。
「な、なに…!?」
 制限されていた感性をも取り戻し、和斗が抱え込む傷の深さを知った零は、すぐさま力を揮った。
「ヤマトの邪魔は、させない」
 流し込まれる眠りに抗う術もなく、意識を失い崩れ落ちる幼い体をそっと抱きとめると、上着についていたものよりも濃い赤が、零の手を汚した。
「貴女にはあげないし、」
 唐突に開放された力が溢れ、薄暗いスラムをぼんやりと色付かせている。
 驚愕を通り越し、僅かに恐怖を滲ませた沙良を一瞥すると、灰色の空へと目を向け、零は嘆息した。
 鮮やかなスカイブルーの瞳が死んでいる。
「こんなところに、長々といたくもないわ」
 和斗の手を離れ、重力に従って落ちた鳥籠。黒光りするそれを見えない力で拾い上げ、最後に一度、零はスラムを見渡した。
 発現しようとする力に呼応して、周囲を漂っていた力の断片が収束を始める。
「さよなら、ヤマトを育んだ掃き溜め」
 嘲るでも、蔑むでもない、冷ややかな言葉と共に零の姿は文字通りスラムから〝掻き消えた〟。
「……キング…っ」
 スラムに輝く、唯一の光と共に。


 ――大丈夫。私達は独りじゃない。

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