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「ッ――」

 滴る鮮血に顔を顰め傷ついた腕を見下ろした。
 溢れ出る血は止まらない。止める事が出来ない。

「大丈夫?」

 慌てるでもなく近付いてきた柘榴はそっとルヴィアの腕を取り、そこに刺さった硝子の欠片をつまみ出した。

「深いね」
「クラクラする・・」

 粘り気のない血が床に落ち血溜りを作る。
 気だるそうに目を閉じたルヴィアを抱き上げ柘榴は手近なソファーに移動した。

「・・・」

 血が点々と跡を作り移動した痕跡を刻む。
 もったいない。そう呟いたルヴィアを上目遣いに見上げ柘榴はそっと傷口に口付けた。
 ゆっくりとなぞるように舐め上げその血で喉を潤す。
 何度も何度も同じ動作を繰り返し、目を閉じたルヴィアの頬を軽く叩いた。

「塞いで」
「ん・・」

 じわじわと傷口が小さくなっていく事を確認してから周囲の血を拭う。
 左目だけを薄っすらと開たルヴィアは柘榴の上着を掴んだ。

「クラクラする・・」
「大丈夫?」

 血濡れた手を頬に添える事はせず柘榴はソファーの下に腰を下ろす。
 視界の外で繋がれた手に安堵した。

「ごめんね?」
「もういいの?」
「もう我慢できない」

 背後から首に手を回しするりとソファーを滑り降りる。
 目の前に来た首筋にルヴィアは躊躇わず喰らいついた。

 ――苦しいの

 横抱きにした体を抱きしめる腕に力をこめる。それは柘榴だけに許された特権。

 ――何が?
 ――わからない

 稀に体が柘榴の血ですら拒絶する。
 周囲の気配に疎くなり、身体能力は落ち、まるで・・

 ――でももう大丈夫
 ――そう

 まるで人間にでもなった気分。
 血濡れた唇で柘榴に口付けルヴィアはまた短い眠りに落ちた。

「おやすみ、ルヴィア」
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