「おおっと、なんてこった」
紅の引かれた細い唇にそぐわない俗な言葉を口にし、どこからともなく取り出した扇で女は口元を覆った。
肩の大きく開いた紅色の着物。体の前で大きく蝶の形に結ばれた帯。肩を流れる濡れ烏色の髪。爛々と輝く血色の瞳。この場には到底そぐうはずもない、どこか禍々しくも美しいその立ち姿に、誰が目を奪われずにいれよう。
「とんだ場にいあわせた」
けらけらと笑いながら女は、目の前の異形に恐れ戦きもせず近づく。
そして、
「とりあえず、消えや」
さも当然のように、言い放った。
ついと差し出した扇をぱちりと閉じ、くるりと手首を回し、開いた手の平にはもう何も持ってはいない。
「でないと喰ろうてしまうでぇ」
紅の引かれた細い唇にそぐわない俗な言葉を口にし、どこからともなく取り出した扇で女は口元を覆った。
肩の大きく開いた紅色の着物。体の前で大きく蝶の形に結ばれた帯。肩を流れる濡れ烏色の髪。爛々と輝く血色の瞳。この場には到底そぐうはずもない、どこか禍々しくも美しいその立ち姿に、誰が目を奪われずにいれよう。
「とんだ場にいあわせた」
けらけらと笑いながら女は、目の前の異形に恐れ戦きもせず近づく。
そして、
「とりあえず、消えや」
さも当然のように、言い放った。
ついと差し出した扇をぱちりと閉じ、くるりと手首を回し、開いた手の平にはもう何も持ってはいない。
「でないと喰ろうてしまうでぇ」
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「我が名はフルベ。名を名乗れ異形」
「――影屍[エイシ]」
「ならば影屍、その名の下に忠誠を誓うがいい。妾に隷属するせよ」
「御身に忠誠を、飛鳥天女を捕らえし人」
「・・・・・貴様、京の出か」
「いかにも。ただ貴女様に刃向ける気はなく、ただ御身のために尽くせればと思い結界を破りし者であります」
「なんとまぁ、物好きな。――飛翔の末路を知っておろうに」
「――影屍[エイシ]」
「ならば影屍、その名の下に忠誠を誓うがいい。妾に隷属するせよ」
「御身に忠誠を、飛鳥天女を捕らえし人」
「・・・・・貴様、京の出か」
「いかにも。ただ貴女様に刃向ける気はなく、ただ御身のために尽くせればと思い結界を破りし者であります」
「なんとまぁ、物好きな。――飛翔の末路を知っておろうに」
「――フルベ様」
「おらぬ」
「まぁ、またそのようなことを」
「おらぬよ」
「お寄りになってはどうですか? よいお酒をお出しいたしましょう」
「妾が飲むのは異国のぶどう酒、それ以外は飲まないよ」
「もちろん、ご用意してございます」
「はてさて、」
妾が飲まされるのはぶどう酒か、泥水か。
「おらぬ」
「まぁ、またそのようなことを」
「おらぬよ」
「お寄りになってはどうですか? よいお酒をお出しいたしましょう」
「妾が飲むのは異国のぶどう酒、それ以外は飲まないよ」
「もちろん、ご用意してございます」
「はてさて、」
妾が飲まされるのはぶどう酒か、泥水か。
「っ・・」
赤く
「嫌われたな」
気高い
「お前じゃあるまいし」
その花を
「ほら」
この手に
「・・・」
しようと
「この棘は私を傷つけない」
思った
「・・・」
大した
「どうした?」
理由は
「・・・なんでもない」
ないけれど
「__?」
でも
「何でもないって」
似合ってる
「そうか・・」
なんて
「行こう」
口が
「__」
裂けても
「?」
言って
「似合ってる」
言、って・・
「――あっそ」
やらないんだからな
赤く
「嫌われたな」
気高い
「お前じゃあるまいし」
その花を
「ほら」
この手に
「・・・」
しようと
「この棘は私を傷つけない」
思った
「・・・」
大した
「どうした?」
理由は
「・・・なんでもない」
ないけれど
「__?」
でも
「何でもないって」
似合ってる
「そうか・・」
なんて
「行こう」
口が
「__」
裂けても
「?」
言って
「似合ってる」
言、って・・
「――あっそ」
やらないんだからな
その輝かしい魂をずっと見続けてきた。
「暇な奴」
隣に立つ無粋な来訪者へと一瞥すらくれずルシフェルは動かない。
その視線を釘付ける存在に小さく舌打ちし、セエレは軽く右手を上げた。
「やめろ」
途端静止がかかる。
自分がこの空間に無断で侵入しようと何も言わなかったのに、だ。
「あんなガキの何がいいんだよ」
「さぁな」
気に入らない。
「じゃあ、いいだろ」
「チッ」
振るわれた力を打ち消すように力を振るいルシフェルは立ち上がった。
じろりと睨まれたセエレはぱっと姿を消し、そのまま行方を晦ます。
「・・・」
何もない空間にぽっかりと口を開けた光の向こうに、小さな人影があった。
稀に来る同胞はいつも同じことばかり言う。ナゼアンナモノニココロウバワレタ。
「お前等には見えないのか、あの輝きが」
どこまでも強く、清らかで、きっと何者にも染まらないであろう輝き。
一目見て魅せられた。理由なんて必要ない。
「貴様には見えるというのか、ルシフェル」
「――ヴィエナか」
「答えろ」
お前には何が見えている。
「光だ」
「暇な奴」
隣に立つ無粋な来訪者へと一瞥すらくれずルシフェルは動かない。
その視線を釘付ける存在に小さく舌打ちし、セエレは軽く右手を上げた。
「やめろ」
途端静止がかかる。
自分がこの空間に無断で侵入しようと何も言わなかったのに、だ。
「あんなガキの何がいいんだよ」
「さぁな」
気に入らない。
「じゃあ、いいだろ」
「チッ」
振るわれた力を打ち消すように力を振るいルシフェルは立ち上がった。
じろりと睨まれたセエレはぱっと姿を消し、そのまま行方を晦ます。
「・・・」
何もない空間にぽっかりと口を開けた光の向こうに、小さな人影があった。
稀に来る同胞はいつも同じことばかり言う。ナゼアンナモノニココロウバワレタ。
「お前等には見えないのか、あの輝きが」
どこまでも強く、清らかで、きっと何者にも染まらないであろう輝き。
一目見て魅せられた。理由なんて必要ない。
「貴様には見えるというのか、ルシフェル」
「――ヴィエナか」
「答えろ」
お前には何が見えている。
「光だ」
「あら、どうしてだめなの?」
可愛らしく首を傾げる少女は、けれど禍々しい。
仕掛けられた攻撃を軌跡を纏った左手で弾き、ミゥはふらつく足を叱咤した。
「力を遮断されると肉体を保つ事も危ういのね。――なんて脆い」
苦労して取り寄せた甲斐があったわ。
「なんのつもりだ・・」
「そんな声出したって無駄よ? 全然怖くないんだから」
少女の足下に?落ちた?黒猫はピクリとも動かない。
その首筋に埋め込まれ脈打つ種子にミゥは見覚えがあった。確か――
「キィラ」
そう、キィラ。悪魔の体に寄生しその力を糧として育つ植物。
餌にされた悪魔は例外なく力の全てを栄養として吸収され髪一筋さえ残らない。・・文献にはそう記されていた。
「さぁ、どうする? この猫ちゃんから種子を切り離してみる?」
「・・・」
「?風よ、力なき使い手を切り裂け?」
「ッ――」
「な、に・・やってんだよ!」
「チナっ」
「そんな奴ぶっ飛ばせるだろ!?」
足がふらつく。焦点が定まらない。
「最悪だな・・」
「おしまいよ」
まだ家族で旅をしているころの俺と同じ顔、声で、そいつは俺を嘲笑った。
――まだだ
「今度は?炎よ?」
「・・・お前の力は届かない」
そう、あのころと同じ。
「まさかっ・・」
「お前にこの力は使えない」
でも、一つだけ違う。
「風よ切り裂け、千々にだ」
「――ッ!」
たとえどんな姿をしていても、お前は俺じゃない。
「そんな、言霊でもないのに・・」
「エレメントは俺の声に耳を傾けてる」
「貴女に命令される事を待っているですって? 気位の高い精霊達が」
「そうさ。・・目障りだ、消えろ」
「っ」
エレメンタルマスターとして生まれたのは、俺。
「・・・燃やしてくれ、傷つけないように」
黒猫の首筋に小さな炎が灯り、そこに寄生するキィラを焼き尽くした。
ゆっくりと力ない体を抱き上げミゥは息を吐く。
「ミゥ・・・」
「大丈夫。っていうか、お前ら今日のこと忘れろ。眠れ」
もうここが屋外だとかこいつらここに転がしておくわけにはいかないとか、関係ない。
「ルシフェル?」
言葉にして「起きろ」というのは躊躇われた。
力を込めなくてもきっと今俺の言葉はどんな言霊よりも強力な力を持っている。
「ルシフェル・・・」
お願いだから目を開けて、あのときの様に私を一人にしないで。
「随分と信用がないな」
「っ・・」
「泣くのか?」
お前が。
「・・・まさか」
「私が施した封印がガタガタだ。・・いいぞ」
かけなおされた封印に肩の力を抜く。
あの力は危険だ。俺の体がずっと持っていたあの力は、一瞬で全てを破壊する。
「苦しかったか?」
「何、心配してんの?」
お前が。
「ああ」
「・・・大丈夫だよ。俺は死ななきゃ大丈夫」
「そうか」
すっ、と伸ばされた腕の先で転がってたチナたちが消える。
またいつもと同じ黒猫の姿に戻り、ルシフェルは俺の肩に飛び乗った。
「よし、戻って寝るか」
疲れたし。
「にゃー」
失わなければどうでもいい。
可愛らしく首を傾げる少女は、けれど禍々しい。
仕掛けられた攻撃を軌跡を纏った左手で弾き、ミゥはふらつく足を叱咤した。
「力を遮断されると肉体を保つ事も危ういのね。――なんて脆い」
苦労して取り寄せた甲斐があったわ。
「なんのつもりだ・・」
「そんな声出したって無駄よ? 全然怖くないんだから」
少女の足下に?落ちた?黒猫はピクリとも動かない。
その首筋に埋め込まれ脈打つ種子にミゥは見覚えがあった。確か――
「キィラ」
そう、キィラ。悪魔の体に寄生しその力を糧として育つ植物。
餌にされた悪魔は例外なく力の全てを栄養として吸収され髪一筋さえ残らない。・・文献にはそう記されていた。
「さぁ、どうする? この猫ちゃんから種子を切り離してみる?」
「・・・」
「?風よ、力なき使い手を切り裂け?」
「ッ――」
「な、に・・やってんだよ!」
「チナっ」
「そんな奴ぶっ飛ばせるだろ!?」
足がふらつく。焦点が定まらない。
「最悪だな・・」
「おしまいよ」
まだ家族で旅をしているころの俺と同じ顔、声で、そいつは俺を嘲笑った。
――まだだ
「今度は?炎よ?」
「・・・お前の力は届かない」
そう、あのころと同じ。
「まさかっ・・」
「お前にこの力は使えない」
でも、一つだけ違う。
「風よ切り裂け、千々にだ」
「――ッ!」
たとえどんな姿をしていても、お前は俺じゃない。
「そんな、言霊でもないのに・・」
「エレメントは俺の声に耳を傾けてる」
「貴女に命令される事を待っているですって? 気位の高い精霊達が」
「そうさ。・・目障りだ、消えろ」
「っ」
エレメンタルマスターとして生まれたのは、俺。
「・・・燃やしてくれ、傷つけないように」
黒猫の首筋に小さな炎が灯り、そこに寄生するキィラを焼き尽くした。
ゆっくりと力ない体を抱き上げミゥは息を吐く。
「ミゥ・・・」
「大丈夫。っていうか、お前ら今日のこと忘れろ。眠れ」
もうここが屋外だとかこいつらここに転がしておくわけにはいかないとか、関係ない。
「ルシフェル?」
言葉にして「起きろ」というのは躊躇われた。
力を込めなくてもきっと今俺の言葉はどんな言霊よりも強力な力を持っている。
「ルシフェル・・・」
お願いだから目を開けて、あのときの様に私を一人にしないで。
「随分と信用がないな」
「っ・・」
「泣くのか?」
お前が。
「・・・まさか」
「私が施した封印がガタガタだ。・・いいぞ」
かけなおされた封印に肩の力を抜く。
あの力は危険だ。俺の体がずっと持っていたあの力は、一瞬で全てを破壊する。
「苦しかったか?」
「何、心配してんの?」
お前が。
「ああ」
「・・・大丈夫だよ。俺は死ななきゃ大丈夫」
「そうか」
すっ、と伸ばされた腕の先で転がってたチナたちが消える。
またいつもと同じ黒猫の姿に戻り、ルシフェルは俺の肩に飛び乗った。
「よし、戻って寝るか」
疲れたし。
「にゃー」
失わなければどうでもいい。
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