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「なぁ、あん――」

 ぱしっ、と小気味良い音と共に叩き落とされたのは見知らぬ男の手だった。

「さわるな」

 不機嫌さも顕わにシーリンが唸る。男の手を叩いた左手は今にも軌跡を描きだしそうな勢いだ。何がそこまで彼女の機嫌を損ねたのか分からず、ラスティールは内心首を傾げながらもやんわりとその手を押さえた。初めから手を繋いでいたために、その時点で両手が塞がる。

「ひっでーな」

 大げさに片手をひらつかせる男の目は髪と同じ夕焼色をしていた。

「どちら様?」

 夕焼色。つまり、赤だ。

「あんたの同類」

 一目見て分かる《同族》の証にラスティールは目を細める。「だからなのね」と、音も無く呟いて繋いだ手に力を込めた。すぐさまそれ以上の力で握り返されればもう、決定的。

「ヴェルメリオって言えば、さすがに分かるだろ」
「いいえ」

 男――ヴェルメリオ――の存在そのものがシーリンを苛立たせるのなら、ラスティールの取るべき行動は一つだ。

「…まじで?」

 くるりとヴェルメリオに背を向けラスティールはシーリンの手を引く。「行きましょう」と促す声は、不自然なほど普段通りだった。

「さっさと成仏なさい」
「――分かってんじゃねーか!」

 去り際の言葉にだけからかうような色を乗せたラスティールの手が、肩越しにひらりと揺れる。手を振ったのだと、気付いてシーリンは顔を顰めた。

「馴れ馴れしい」
「妬かない妬かない」
「…誰がだ」

 今度は別の意味で不機嫌なシーリンの耳元へ唇を寄せ、ラスティールは「絶対に大丈夫だから」と念を押す。「だから壊しちゃ駄目よ」と、釘を刺されてシーリンは鋭く舌打ちした。乱暴に振って解こうとした手は、しっかりと握られていて離れない。

「……」
「どうかした?」

 逆に腕を絡めるように手繰り寄せられ、距離を詰められたシーリンは恨みがましくラスティールを見上げた。

「私はお前のそういう所が嫌いだ」
「私は貴女のそういう所も好きよ、シーリン」
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