骨が折れない限り足は体を前へと運ぶし、千切れない限り両手は武器を握れる。だから恭弥は生きている限り戦う事をやめない。やめる事が出来ない。
「おいボス、いきなりやりすぎたんじゃねぇか?」
例外があるとすれば、致命傷を受ける前に体力が尽きた時だ。
「そうは言うけどな、ロマーリオ。こいつとんだじゃじゃ馬だぜ」
「嬢ちゃんほどじゃねーだろ」
「…まぁな」
見事にぶっ倒れた恭弥の頬をぺちぺち叩いて、反応がない事を確かめてから引き起こす。そのままさてどうしたものかと思案していると、《跳ね馬》が手を出してきたから猫をけしかけてやった。
「うおっ」
やっぱりこのまま運ぶとビジュアル的におかしいかな。
「気をつけろよー、ボス。その猫凶暴らしいぜ」
「おせーよ!」
恭弥を抱えて帰るくらい、別段出来ない事はない。私だって恭弥と同じくらいには馬鹿力だ。幾らか劣る体力面は気力でカバー出来る。というか、してみせる。ただそうすると後で恭弥の機嫌が悪くなりそうで怖い。
男の子だからね。
「ん…?」
あれこれ考えているうちに恭弥の手が動いた。意識はまだ戻っていない。にも関わらず投げ出されていた両手はしっかりと私の背中に回され、正面からお互いに抱きあうような体勢に落ち着く。
理解は一瞬遅れてやってきた。
「…しまった」
これじゃあ動けない。
「きょうやぁ…」
そりゃあないよと嘆いてみても反応はない。完全にお休みモードだ。こうなると自力で動けるようになるまでは梃子でも動かないのが恭弥の常。その代わり周囲に対する警戒を私に任せっきりにしているから一人の時より回復が早い。
あからさまに信用しているという態度が嬉しくないわけはないけど、今そうされるのはちょっと複雑。
「仲良いなーお前ら」
「煩い」
どうやって帰れと。
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どうするも何もどうしようもないから結局そのまま恭弥が起きるのを待つ事にした。《跳ね馬》はこのまま放ってはおけないだの師匠としての責任がどうだの煩かったけど、目が覚めた恭弥が《跳ね馬》を見て当然起こすだろうアクションについて嫌味っぽく説明してやったらぶつくさ言いながらも部下と帰っていった。御丁寧に置いていかれた連絡先は、仕方なくハーフボンゴレリングと一緒にしている。
「恭弥」
たっぷり時間をおいて、さすがにこれ以上ここにいるのはまずいだろうという時間になってから私はようやく恭弥を起こしにかかった。名前を呼んで背中を叩いて、縋るように体を揺らす。いい加減家に帰るくらいの体力は戻っているだろうからと、ぐずるよう首筋へ顔を押し付けられても絆されたりはしない。
「恭弥」
「ん…」
家に帰ったらそのままベッドに直行して朝までぐっすりでも構わないから、とりあえず今は起きて欲しい。
「恭弥、起きて」
「……なに…」
背中へ回されていた腕にさも不機嫌そうな力が込められて、あぁよかったと肩が落ちた。
「もう帰ろうよ」
「あの外人は…」
「明日も来るって」
「そう」
(そこに安眠はある/姉と弟。べったり)
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