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――命の紡ぎ手――

「人の一生は短い」
 たった百年弱の生涯で悔いを残すなという方が無理な話だ。
「だから僕は造った。人と同じ姿、同じ力、同じ終焉を持ちながら、老いも病も持たない〝人工〟の〝生体〟を」
 望むのなら与えよう、求めて希うがいい。
「お前がどんなキセキを残すのか楽しみだ」

 緑色の溶液で満たされた円柱のガラスケースに触れると、ひんやりとした冷たさが心地よかった。ケースの中にいる少女にとっては冷たすぎるくらいだろうが、彼女は〝まだ〟そんなことを知らない。
「ハルカ、最終チェック終わりました」
「当該エリアをネットワークから切断。溶液排出。排出スピードを通常よりも遅らせて」
「生体を起動せずに?」
「まだ起こすには早い」
「わかりました」
 普段の倍、時間をかけて水位が下がり、あわせて中に浮いていた少女の体が下りてくる。僕は厚いガラス越しに彼女の頬を撫でた。炎のように赤い髪が、一度大きく広がって落ちる。少女はケースの中で膝をついた。
「もうすぐ会えるよ、つば「――ハルカ!」
 彼女の鮮烈な赤とは違う、酷く毒々しい紅[アカ]が唐突に世界を侵した。
「生体、汚染…?」
 既に大半の排出を終えていた緑の溶液が、ケースの底から溢れ出す紅い溶液に呑まれ、苦しげにのたうつ。けたたましい警告音[アラート]に急かされ、あっという間にケースの中は紅で満たされた。確かにそこにいるはずの少女の姿が、見えない。
「どうして……今ここは完全なスタンドアローンのはず…!」
 視界を埋め尽くす濁った紅に、頭の奥が鈍く痛んだ。
「カノ、エ…カノエ! どういうことだっ!!」
「…外部からの汚染では、ありません……ここはまだネットワークから切り離されたままです」
「ならどうし……――ッ」
 細い指先が、ガラスケースをなぞる。
「内側、から…?」
 ありえないことだ。彼女は起動どころか、体を動かすためのプログラムさえ満足に与えられてはいないのに。
「ハルカ…」
 けれど僕は、心のどこかで歓喜していた。
「……」
 〝お前がどんなキセキを残すのか楽しみだ〟
「ケースの封鎖を、強制解除する」

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