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 幼い少年を視界にいれ、ナギは一度に乗せた本の感触を確かめた。


「いいことを、」


 教えてあげましょうか。――途切れた言葉の先を知ってか知らずか、少年は訝しげな目をナギへと向ける。
 ナギは目を閉じて、完全に木の幹へと体を預けた。


「なんのことだと思う?」
「……」


 機嫌のよさは頬を撫でる風が原因。だからこの風がやまないうちに、告げておかなければ。


「今日、朝起きたら、机の上に書いた憶えのないメモがあったの。でも、そんなこと珍しくもないわ? そこに書いてあったことは酷く重大で、面白いことだったけど」
「重大?」
「そう。とても、ね」


 もう何度読み返したかわからない。所々擦り切れた本を慈しむような手で捲り、ある一点でナギは手を止めた。
 彼女を見上げる位置に立つ少年に、示されたページは見えない。


「なんて書いてあったと思う?」


 ページとページにはさまれた紙片の感触をひとしきり楽しんで、ナギはパタリと本を閉じた。
 そうして彼女の本はまた厚みを増す。紙片に記されたメッセージを集め、少女はいつしか答にたどり着いていた。


「〝懐かしい気配がする〟――きっと、すぐに母上もお気付きになるでしょうね」
「――クロウカードが?」
「懐かしいのは多分守護者の方よ」
「何故俺に…」
「決まってるじゃない」


 でも気づかない振りをする。


「貴方が一番、私の傍にいるからよ。――小狼」


 その方が、楽。

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